アコムグループの一員として、債権管理回収業務(サービシング)のプロフェッショナル集団であるアイ・アール債権回収株式会社。同社は、業務の中核を担うサービシング部署において、アフターコールワークの抜本的な効率化と、さらなる応対品質の向上を目指し、丸紅I-DIGIOグループが提供する音声認識サービス「MSYS Omnis(以下、Omnis)」の導入を決定した。
法定業務である詳細な応対記録(法定帳簿)の作成という、業界特有の課題に長年向き合ってきた同社が、なぜ今、音声認識サービスの導入に踏み切ったのか。数ある製品の中から「Omnis」を選んだ決め手とは何か。そして、導入からわずか1ヶ月半で実感している効果や今後の展望について、このプロジェクトを牽引した常務取締役 菊地 隆文氏(以下、菊地常務)と、サービシング第1部長 井澤 隆峰氏(以下、井澤部長)に、詳しくお話を伺った。
- 事業成長に伴う業務量の増加に対し、業務効率化が不可欠
- 法律で定められた「法定帳簿」記録業務の正確性と効率性の両立が必須
■Omnis導入の背景と、選定のポイント
1. アイ・アール債権回収株式会社の業務内容とサービシング部署の役割
アイ・アール債権回収株式会社は、その名の通り、債権の管理・回収を専門に行う「サービサー」である。同社の業務の中核は、お客さまとのコミュニケーションを通じて債権の円滑な取引の完了を目指す「サービシング業務」であり、その最前線を担うのがサービシング部署だ。
サービシング部署の折衝担当者(以下、折衝担当者)の役割について、「主な業務は、お電話でお客さまと直接お話しし、ご返済に関するご相談や交渉を行うことです。単に回収を促すだけでなく、お客さまの状況を丁寧にお伺いし、解決策を一緒に見つけていく、非常に重要な役割を担っています」と、井澤部長は説明する。

同社の業務には、一般的なコールセンターとは一線を画す、法律によって定められた重要な義務が存在する。それが「法定帳簿」への記録義務である。これは、お客さまとどのような会話を交わしたのか、その折衝内容を詳細に記録し、保管することを義務付けるものだ。
この記録作成は、単なる要約では許されず、会話の全体像を網羅的に、かつ正確に記述する必要がある。そのため、折衝担当者は、お客さまとの対話と並行して、この法定帳簿を作成するための後処理業務に多くの時間を費やしてきた。この点が、同社の折衝業務における最大の特徴であり、長年の課題でもあった。
2. 音声認識サービス「Omnis」導入の背景と課題
法定帳簿への詳細な記録義務は、折衝担当者に大きな負荷をかけていた。この業務負荷の軽減と、それに伴う業務全体の効率化が、今回の「Omnis」導入における最大の動機だ。
井澤部長は、導入前の具体的な課題についてこう語る。
「お客さまとの会話は、時には15分、長い時では30分以上に及ぶことも少なくありません。これまでは、折衝担当者がお客さまと会話をしながらメモを取り、通話終了後に録音を聞き返して、その内容をシステムに入力するという作業を行っていました。30分の会話であれば、聞き起こしにさらに30分、そして入力作業の時間がかかります。この『聞き起こし』と『入力』の作業が、折衝担当者にとって非常に大きな負担となっていました」
この課題は、事業環境の変化によってさらに深刻化していた。菊地常務は、その背景に業界の構造変化があると指摘する。
「弊社が属するサービサー業界は、約25年前に設立されました。当時は事業性の大口ローンが中心で、1件1件にじっくり時間をかけることができました。しかし、近年はカードローンなどの個人向け小口債権、いわゆる『リテール債権』が主流になっています。案件数が飛躍的に増加する中で、従来と同じやり方では、コストと時間の両面で対応が追いつかなくなってきたのです」
さらに、同社がアコムグループの一員であることも、変革を後押しする大きな要因となった。
「今後、親会社であるアコムやグループ会社の長期延滞債権を弊社が引き受けるなど、リテール債権がさらに増加することが見込まれています。この大量の案件を効率的に、かつ品質を落とさずに対応するためには、法定帳簿作成業務などの抜本的な効率化が急務でした。この課題を解決する手段として、音声認識サービスの導入検討が本格化したのです」と菊地常務は続ける。
増え続ける業務量と、法律で定められた厳格な記録義務。この2つのプレッシャーの中で、折衝業務のあり方そのものを見直す必要に迫られていた。
■Omnis導入の決め手と、導入後の効果
3. 「Omnis」導入の決め手と競合製品に対する優位性
業務効率化という明確な目標のもと、同社は複数の音声認識サービスを比較検討した。その中で最終的に「Omnis」が選ばれた決め手は、同社が抱える複雑な要求に、最もバランス良く応えるソリューションであったことだ。
菊地常務は、選定のポイントとして「網羅性」「正確性」、そして「リアルタイム性」(即時性)の3点を挙げる。
「導入にあたっては、もちろん複数社の製品を比較検討しました。たとえば、他社製品には、録音データを後から専門のオペレーターが文字起こしするサービスがありました。確かに正確性は高いのですが、記録が完成するまでにタイムラグが発生します。我々の業務では、折衝後すぐに記録を確認し、次のアクションに移る必要があるため、このタイムラグは許容できませんでした」

人間がリアルタイムで文字起こしを行うサービスも検討されたが、これも採用には至らなかった。
「先ほどのサービスもそうですが、人間が介在するサービスは、コスト面での課題が大きかったですね。それに加えて、弊社の業務は機微な個人情報を取り扱います。外部の第三者に会話内容を聞かせることに対する情報保護の観点での懸念もあり、導入は難しいと判断しました」と菊地常務は振り返る。
これらの課題を総合的に解決したのが「Omnis」だった。AIによるリアルタイムでのテキスト化は、業務の即時性を損なうことなく、セキュリティリスクも最小限に抑えることができる。さらに、既存のPBX(電話交換機)とのシステム的な互換性が高かったことも、スムーズな導入を見込める大きなアドバンテージとなった。
コスト、セキュリティ、業務への即時反映、そしてシステム連携の容易さ。これらの要素を総合的に評価した結果、「Omnis」が最も優れたソリューションであると結論付けられた。
4. 3年前の検討から一転、今回の導入に至った理由
実は、同社が「Omnis」を検討するのは今回が初めてではない。3年前にも一度、導入を検討した経緯がある。しかし、その時は採用を見送った。この3年間で、何が変わったのだろうか。
井澤部長は、3年前の状況をこう振り返る。
「3年前の時点では、正直なところ、まだ我々の業務で使うには精度が不十分だと感じました。特に、債権回収業界で使われる専門用語や特有の言い回しの誤変換が多く、『この精度では実用的ではない』という意見が社内でも上がっていました」
「当時は、現場の担当者レベルまで製品の詳細な情報が十分に伝わっていなかったという側面もあります。実際にどれくらい業務の役に立つのか、具体的なイメージが掴みきれなかったというのが正直なところです」と続ける。
しかし、今回の検討では状況が一変した。まず、「Omnis」自体の機能や性能が大きく向上していたことが奏功した。加えて、丸紅I-DIGIOの提案力も導入の後押しになったという。
「今回の御社の営業担当の方の説明は素晴らしかった。我々の業務内容を深く理解した上で、導入後の具体的な活用イメージを非常に分かりやすく提示してくれました。デモンストレーションも見させていただき、『これなら使える』という確信を持つことができました」と井澤部長は語る。
製品の進化、提案力の向上、そして現場の期待感。これらの要素が結実し、3年前には見送られたプロジェクトが、今回は全社的なコンセンサスを得て、スムーズに導入へと進んでいった。
5. 導入プロセスにおける丸紅I-DIGIOの対応
製品選定から実際の導入に至るまでのプロセスにおいて、パートナー企業のサポート体制はプロジェクトの成否を分ける重要な要素である。この点について、丸紅I-DIGIOの対応は高く評価されている。
「弊社のシステムチームと丸紅I-DIGIOの担当者の方がしっかりとミーティングを行ってくださいました。私も進捗状況について逐一報告を受けていました。導入にあたっては、手厚くサポートしていただけて、スムーズな導入ができたようで、大変感謝しています」と菊地常務は話す。
6. 導入後の具体的な機能活用法
2025年10月に本格稼働してから約1ヶ月半。現場ではすでに「Omnis」のさまざまな機能を活用し、大きな業務効率化を実現しているという。
井澤部長が挙げるのは、折衝担当者の行動変容だ。
「最も大きな変化は、担当者が『メモを取らなくなった』ことです。以前は会話の要点を必死にメモしていましたが、Omnisがリアルタイムでテキスト化してくれるので、その必要がなくなりました。これにより、担当者はメモを取ることから解放され、お客さまとの会話に集中できるようになりました」
これにより、長年の課題であったアフターコールワークも劇的に変化した。録音データを最初から最後まで聞き返す必要はなくなり、テキスト化された会話の中から確認したい箇所をクリックするだけで、該当部分の音声をピンポイントで再生できるようになった。さらに、「要約機能」を活用することで、長い会話の記録も、AIが生成した要約をベースに修正・補足するだけで済むようになり、作業時間は大幅に短縮された。
経営管理の視点からは、「感情分析機能」が新たな価値を生み出していると菊地常務は語る。
「私たちの業務は、時としてお客さまとの間に緊張感が生まれることもあります。この感情分析機能では、会話中の折衝担当者の感情が可視化されるため、『お客さまが怒りを感じている』といった状況をマネージャーがリアルタイムで把握できます。これにより、問題が大きくなる前に、すぐに折衝担当者のヘルプに入ったり、適切なアドバイスをしたりといった対応が可能になりました。これは、従業員を守るという観点からも非常に有効です」
また、テキスト化された応対記録は、折衝担当者自身の「自己学習ツール」としても活用されている。自分の応対を客観的に振り返り、言い回しや説明の仕方を改善する材料となっている。AIによる応対評価も、時に厳しい指摘もあるが、それも品質向上のための良い刺激になっているという。
7. 導入によって得られた定量的・定性的な効果
導入からわずか1ヶ月半という短期間にもかかわらず、「Omnis」はすでに明確な効果をもたらしている。その効果は、数値で測れる「定量的効果」と、従業員の意識や働きがいにつながる「定性的効果」の両面に及んでいる。
定量的な効果として、井澤部長はアフターコールワークの劇的な時間短縮を挙げる。
「具体的な例を挙げると、以前は15分のお客さまとの会話に対して、聞き起こしと入力で20分から30分かかっていた作業が、今では5分程度で完了しています。通話時間は変わりませんが、後処理の時間が大幅に削減されたことで、全体の業務効率は感覚値で50%以上向上したと言えるでしょう」
これは、法定帳簿作成という不可欠な業務にかかる時間を大幅に削減できたことを意味し、生産性の飛躍的な向上に直結している。
一方で、菊地常務は定性的な効果の重要性を強調する。
「最も大きいのは、折衝担当者の『ストレス軽減』です。自分の会話を何度も聞き返して入力する作業は、精神的にもかなりの負担でした。その負担から解放されたことで、社員の満足度向上にも繋がっています。何より、新しいツールが導入され、自分たちの仕事が楽になっていくのを『目に見える形』で実感できることが、現場のモチベーションを高めています。これは数値では測れない、非常に重要な効果だと考えています」
業務効率化という直接的なメリットに加え、従業員の働きやすさや満足度を向上させるという副次的な効果も、今回の導入がもたらした大きな成果と言えるだろう。
■今後の展望と、さらなる品質向上へ
8. サービサー業務の品質向上が、グループ全体の事業成長につながる
「まずは、現在活用している機能の精度をさらに高めていくことが当面の目標です。現場の折衝担当者がより使いやすいように、業界特有の言葉などを辞書登録し、カスタマイズを進めていきたいですね。その上で、将来的には折衝担当者ごとの得意・不得意を分析するような、より高度な機能の活用も検討していきたいと考えています」
そして、その先に見据えるのは、業界のイメージをも変える可能性を秘めた、顧客満足度の追求である。「私たちの最終的な目標は、『お客さまの満足度向上』です。債権回収という業務であっても、お客さまに気持ち良くお取り引きを終えていただく。そのために、Omnisを活用して応対品質をさらに磨き上げ、『アイ・アール債権回収は他とは違う』と思っていただけるようなサービスを提供していきたい」と菊地常務は語る。

そして、この取り組みは、同社単独にとどまるものではない。
「我々の応対品質が向上すれば、親会社であるアコムも、より自信を持ってお客さまにサービスを提供できます。私たちの取り組みが、アコムグループ全体の事業成長に貢献していく、そんなポジティブなスパイラルを生み出すことが、私たちの目指す未来像です」と菊地常務は、グループ全体の事業成長を視野に入れる。
そのためには、パートナーである丸紅I-DIGIOとの連携も不可欠である。
「他社での成功事例の共有や、我々のようなユーザー企業が集まるディスカッションの場などを提供していただけると、さらに活用の幅が広がるのではないかと期待しています」と、今後のパートナーシップへの期待についても、お話をいただいた。
法定業務の効率化という課題解決から始まった「Omnis」の導入は、今や、従業員の満足度向上、そしてグループ全体の事業成長に貢献する、戦略的な一手となりつつある。




