非接触三次元測定機(光学式・レーザー式)は、薄肉・複雑形状への対応やタクト短縮、自動化ニーズを背景に導入が加速しています。一方、品質保証の現場では「測定結果を判定根拠としてどこまで扱えるか」「監査でトレーサビリティまで説明できるか」といった不安が残り、カタログ値だけでは装置間比較や監査対応が難しい場面もあります。
そこで本稿では、性能保証規格(ISO 10360/VDI/VDE 2634)と、校正・認定の枠組み(JCSS/A2LA/ILAC MRA)を手がかりに、測定結果の信頼性をどう担保するかを整理します。丸紅I-DIGIOグループ 製造ソリューションセグメントの安倍 真優が、現場でよくある論点も交えて解説します。
非接触三次元測定機の「信頼性」が問われる背景
――ここ数年、非接触三次元測定機の精度に関する問い合わせが増えていると聞きます。現場では何が起きているのでしょうか。
安倍 製造業全体で、高精度化・軽量化(薄肉化・複雑形状化)、多品種少量、測定タクト短縮や自動化が一気に進んでいます。その結果、接触式CMMだけでは追いつかない領域を「非接触で埋めたい」というニーズが増えました。ただ同時に、品質保証・品質管理の方からは次のような声もよく出ます。
- 「非接触は便利だけど、本当に結果を信用できるのか」
- 「客先監査で“測定のトレーサビリティ”を説明できるのか」
そこでポイントになるのが、測定機の性能を“共通のルール”で語れるかどうかです。具体的には、ISO 10360 や VDI/VDE 2634 といった性能保証規格、さらに校正機関の認定(JCSS、A2LA)と国際相互承認(ILAC MRA)まで含めた枠組みが効いてきます。
よくある「不安」の正体――カタログだけでは埋まらないギャップ
――現場では、どんな不安や困りごとが多いですか。
安倍 代表的なものは次の3つです。
一つ目は、カタログの“精度”の意味が読み取りにくいことです。「〇〇µm」とあっても、どんな条件での数値なのか、接触式CMMのMPEと同列に比較してよいのかが分かりづらいケースがあります。
二つ目は、装置ごとに“ものさし”が違うのでは、という疑問です。メーカーが違うと結果が違う、同じ非接触でもレーザー式と光学式で傾向が変わる――こうなると「どれが正しいのか」を判断しにくくなります。
三つ目は、測定結果の根拠を監査で説明しづらいことです。「どの規格に基づく性能保証か」「その校正はどこにつながっているか」を聞かれたとき、カタログ以外の説明材料がないと苦しくなります。
――「使ってはいるが、説明しろと言われると詰まる」状態ですね。
安倍 はい。だからこそ、性能保証規格や認定制度といった共通言語が必要になります。
信頼性が曖昧なままだと、どこで困るのか
――この状態を放置すると、現場ではどんな問題につながりますか。
安倍 分かりやすいのは、OK/NG判定が揺らぐことです。装置AではOK、装置BではNGとなると、最後は経験で決めることになり、手戻りや再検査が増えたり、逆に見逃しリスクも上がります。
次に、客先監査・認証審査での説明が弱くなる点です。「メーカーがそう言っているので」では通りづらく、是正・改善の指摘につながることもあります。もう一つは、社内標準化が進まないこと。拠点やラインで条件がバラバラだと、測定値そのものではなく“装置差の調整”に時間が取られます。

測定は本来、品質を判断するための物差しです。物差しの信頼性を規格とトレーサビリティで裏付けることが、結局は無駄を減らし、説明性を高め、標準化・自動化を進める近道になります。
ISO 10360――三次元測定機の「世界共通ルール」
――まず、ISO 10360 はどういう規格ですか。
安倍 ISO 10360 は、三次元座標測定機(CMM)の性能試験方法と、誤差の表し方を定めた国際規格です。接触式だけでなく、スキャナなどを対象とするパートもあり、性能を共通の条件で評価できるようにしています。
――非接触三次元測定機にも関係するのでしょうか。
安倍 はい。例えば、ISO 10360-8(レーザー式)、ISO 10360-13(光学式)など、非接触に関連するパートがあります。当社では、これらに準拠した考え方で性能評価を行い、「長さ測定の最大許容誤差」や「繰り返し性」などを、比較・説明しやすい形で提示します。
――ISOに寄せると、監査や他社比較で話が早くなる、と。
安倍 その通りです。ISO 10360 は“共通言語”なので、説明の土台になります。
VDI/VDE 2634――非接触・光学式に特化した評価軸
――VDI/VDE 2634 は ISO 10360 とどう使い分けますか。
安倍 VDI/VDE 2634 は、光学式・非接触3D測定に特化したドイツの技術規格です。視野や測定ボリューム、形状測定誤差など、非接触ならではの特性を、より運用に近い形で評価しやすいのが特徴です。当社としては、次の考え方、両方を組み合わせて説明性を高めています。
- ISO 10360:国際共通の枠で「基本性能」を整理する
- VDI/VDE 2634:光学式としての「特性」を現場目線で見える化する
JCSS・A2LA・ILAC MRA――「その測定値はどこにつながっているか」
――最後に、JCSSやA2LA、ILAC MRAは測定の信頼性にどう効きますか。
安倍 ここは、「性能値の根拠=標準器がどこにつながっているか」の話です。
- JCSS:日本の校正事業者登録制度で、国家計量標準へのトレーサビリティを第三者が認定
- A2LA:ISO/IEC 17025に基づく試験所・校正機関の認定(米国)
- ILAC MRA:認定結果の国際相互承認の枠組み
つまり、性能評価に使う球体ゲージやステップゲージ、長さ標準などが、JCSSやA2LA認定の校正を経ていて、さらにILAC MRAで国際的に通用する形になっていれば、監査で説明できる“鎖”ができます。「社内で測りました」ではなく、国家標準(SI)につながるルートが示せることが重要です。
まとめ――非接触を“品質保証の武器”にするために
――ここまで、ISO 10360、VDI/VDE 2634、JCSS、A2LA、ILAC MRA について伺いました。最後に、品質保証部・品質管理部・測定オペレーターの皆さまにとっての“実務的なメリット”を整理していただけますか。
安倍 メリットは大きく3点あります。
- OK/NG判定への自信が持てる
ISO 10360/VDI/VDE 2634に基づく性能保証があると、「この非接触三次元測定機は、どの範囲まで、何µmで測れるのか」が明確になります。そこから逆算して、検査公差や測定不確かさの許容範囲を設定しやすくなり、判定基準を論理的に説明できます。 - 客先監査・認証審査での説明材料になる
「ISO 10360/VDI/VDE 2634 に準拠した性能評価を実施している」「JCSS・A2LA認定機関による校正により、国家標準へトレーサブルである」「ILAC MRAにより国際的に相互承認された校正体系に基づいている」こう整理して説明できれば、監査で“測定信頼性”を問われた際の強力なエビデンスになります。 - 社内の測定標準化・自動化を後押しする
ISO 10360やVDI/VDE 2634という共通フレームがあることで、拠点・ライン・装置が異なっても、測定結果の比較や整合が取りやすくなります。その結果、測定プロセスの標準化、測定条件のルール化、自動測定・インライン測定への展開を進めやすくなります。
――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
安倍 非接触三次元測定機は、速さや手軽さに加え、保証規格・認定スキームに基づいて運用することで“信頼できる測定基盤”になります。ISO 10360/VDI/VDE 2634、JCSS/A2LA/ILAC MRAといったキーワードを、客先説明資料や社内手順書、選定チェックリストに組み込み、測定の見える化の軸として活用してください。
また当社では、国際的な精度保証規格に準拠した計測機器のみを採用し、「どの現場でも誰が測っても同じ基準で評価できる」体制を重視しています。海外拠点や海外メーカーとのやり取りでも通用する測定結果の提供に加え、国内で国際認証付きの校正証明書を発行できる点も特長です。測定機を安心して活用するには、少なくとも次の2点が揃っていることが重要になります。
- 国際規格に準拠した測定設備
- その設備について、国内で国際認証付きの校正証明書を発行できること
実は、この両方を満たしている企業はそれほど多くありません。当社は単に機器を販売するだけではなく、定期的な校正とトレーサビリティの確保といった「計測値の信頼性」まで含めて責任を持てる体制を整えています。

当社としては、この点を声高にアピールするというよりも、「測定結果に疑問を持たれないこと」「海外を含めたお客様の品質監査にきちんと耐えられること」を、静かに、着実に積み上げていきたいと考えています。
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