丸紅グループのIT基盤を構築した技術力で実現する企業セキュリティ対策。 ソリューションとサービスはこちら

スタジアム・アリーナの効率的運営 ~出庫渋滞を抑え、チケットレスで入場ゲートを詰まらせないストレスフリーな入退場の実現~

施設によっては数万人が一斉に集うこともある大型のスタジアムやアリーナ。その運営現場では「駐車場」と「入場ゲート」の混雑が常に深刻な課題で、その解決は喫緊のテーマだ。大きなイベント時などには要員増で対応せざるを得ない一方、人材不足で確保が難しく、人件費の増大も課題となる。そうした駐車場や入場ゲートなどの混雑問題を解消するシステムが、AIを活用した映像監視ソリューション「TRASCOPE-AI」である。

本稿では、スタジアムやアリーナが抱える駐車場・入場ゲート問題の実態と、TRASCOPE-AIによって、どのように課題を解決するのかについて、丸紅I-DIGIOグループ IT基盤サービスセグメント エッジソリューション事業室 AI営業課 課長 前田 悠太に話を聞いた。

本記事に関連する資料ダウンロードはこちら >>

駐車場・入場ゲートの混雑は、来場者の不満や施設運営側への不信感につながる重要課題

――スタジアムやアリーナにおいて、駐車場や入場ゲートで発生する混雑問題について、その実情を詳しくお聞かせいただけますでしょうか。

前田 まず駐車場の混雑問題についてですが、特に深刻なのはイベント終了後の「出庫」時です。入場時は来場時間が分散されるため、ある程度のコントロールが可能ですが、出庫時はイベント終了と同時に多くの車両が一斉に動き出します。これにより、場内はもちろん、周辺道路まで巻き込む大規模な渋滞が発生し、来場者に大きなストレスを与えてしまいます。

この問題の根底には、「どこが混んでいて、どこが空いているのか」というリアルタイムの情報が、運営側も来場者も把握できていないという課題があります。大規模な駐車場では複数の出口やルートがあり、誘導員の経験に依存する場面が多いです。結果として、特定の出口に車両が集中するなど、さらなる渋滞の原因ともなり得ます。

次に入場ゲートの問題ですが、こちらはイベントの開催時間近くに来場者が集中することが問題となります。原因のひとつに、一人ひとりのチケット確認作業に時間がかかるということがあります。紙のチケットやスマートフォンのQRコードを探したり、本人確認のために身分証を提示したりと、わずかな時間ロスが積み重なり、大きな滞留となってしまいます。

この問題は、来場者の満足度を低下させるだけでなく、運営側にとってもセキュリティ上の大きなリスクをはらんでいます。昨今では、チケットの転売問題や、過去に迷惑行為を起こしている要注意人物の特定などの問題も絡み、限られた人員と時間の中では確認作業を厳格化することが難しいという実情につながっています。

このように、駐車場と入場ゲートの混雑問題は、単に来場者が待たされるというだけでなく、クレームの発生、リピーターの減少、セキュリティリスクの増大、そして施設運営側への不信感にもつながりかねない重要課題として存在しているのです。

カメラによる車両ナンバー読み取りはもちろん、高精度の顔認証システムで、パーソナルなサービス提供も可能にする

――駐車場混雑も、入場ゲート混雑も、複合的にさまざまな悪影響を及ぼす要因といえるようですが、TRASCOPE-AIはそれをどのように解決してくれるのでしょう。

前田 まずは駐車場の混雑問題をTRASCOPE-AIでどう解消していくのかについてお話しします。

駐車場の入出庫をスムーズ化するために、AIによる車両ナンバー認識システムを活用します。車で来場される方には、事前にご自身のチケット情報と車両ナンバーを登録していただきます。そして当日、駐車場のゲートを入る際に、設置されたカメラで車両ナンバーを読み取り、事前に登録されている情報と照合して、正規のチケット保有者であることを確認し、ゲートを自動開放します。こうした仕組みにより、従来のように駐車券を取ったり、係員がチケットを確認したりする手間が一切なくなり、車両を止めることなくスムーズに入出庫ができるようになります。特に出庫時は、事前精算と組み合わせることで、精算機での待ち時間もなく、ノンストップで出庫することが可能になります。この「1件あたりの処理速度の向上」が、ゲート付近の渋滞を大幅に緩和します。

さらに渋滞予測と分散誘導も有効です。駐車場の各所に設置したカメラ映像をTRASCOPE-AIがリアルタイムで解析し、駐車場内の各エリアや出口ルートの混雑状況を常に把握します。そして過去の膨大なデータから学習したAIが、その日の天候やイベントの種類、時間帯といった条件を加味して、「5分後、10分後にどこが混雑するか」を高精度で予測するのです。

この予測情報は、スタジアム・アリーナ内や駐車場内に設置されたサイネージ、来場者のスマートフォンアプリ、施設の公式ホームページなどを通じてリアルタイムで提供できます。来場者は、「A出口は現在渋滞中。B出口なら5分で出られます」といった具体的な情報を得ることで、自ら空いているルートを選択できるようになります。これにより、特定の出口への車両集中を防ぎ、駐車場全体の流れを最適化し、出庫時の渋滞を解消できます。

さらに、このリアルタイムの混雑データがあることで、経験に頼っていた人員配置をデータドリブンに最適化し、混雑予測エリアに重点配置、過剰配置を見直せます。

――入場ゲートにおける混雑緩和については、どうでしょうか。

前田 入場ゲートの混雑解消の切り札となるのが、AI顔認証システムです。これも駐車場の車両ナンバー認識と同様に、来場者には事前にチケット情報とご自身の顔写真を登録していただきます。そして、入場ゲートに設置された専用の端末に顔をかざすだけで、本人確認とチケット認証が瞬時に完了し、ゲートを通過できるという仕組みです。

これにより、ポケットやカバンからチケットを探したり、スマートフォンの画面を提示したりといった、これまで当たり前だった手間が一切不要になります。いわゆる歩行通過型認証(ウォークスルー)が可能で、来場者は立ち止まることなく、スムーズに入場できます。一人ひとりの認証時間が短縮されることで、ゲート前の混雑は解消され、ストレスフリーな入場体験を提供できます。

そして、この顔認証システムは、セキュリティレベルの飛躍的な向上にも貢献します。事前に登録された顔情報と照合するため、チケットの貸し借りや転売による不正入場を確実に防ぐことができますし、過去に迷惑行為などを理由に出入り禁止となった人物の顔情報を事前登録しておくことで、その人物がゲートに来た際にシステムが自動で検知し、警備員にアラートを送ることができます。これにより、トラブルを未然に防ぎ、すべての来場者が安心して楽しめる環境を維持することが可能になります。

さらに、顔認証は単なる入場手段にとどまりません。一度登録すれば、その登録情報をスタジアム・アリーナ内のIDとして機能させることも可能です。たとえば、場内のグッズショップや飲食店での決済を顔認証で行うキャッシュレス決済や、特定のエリアへの再入場時の本人確認などにも活用できます。何度もチケットを提示する必要がなくなり、より快適なスタジアム・アリーナ体験を提供できるようになります。

将来的には、この顔認証によって得られる個人の来場履歴データを活用し、よりパーソナライズされたサービスを提供することも視野に入れています。たとえば、過去に来場した際にある飲食店を利用したお客様に対し、次回来場時にその店のクーポンを配信するなど、一人ひとりの好みに合わせたマーケティング展開が可能になります。このように、TRASCOPE-AIの顔認証システムは、混雑解消とセキュリティ強化という目の前の課題を解決するだけでなく、将来のスタジアム・アリーナビジネスの可能性を広げます。

混雑解消だけでなく、より快適な来場体験を提供できる仕組みとしても活用可能なTRASCOPE-AI

――具体的な導入事例があれば、ご紹介ください。

前田 まず、駐車場システムの事例としては、北海道日本ハムファイターズの本拠地であるエスコンフィールドHOKKAIDOが挙げられます。ここは、スタジアムの建設段階から当社が関わり、駐車場システム全体をTRASCOPE-AIで構築しました。先ほどご説明した車両ナンバーの認識によるスムーズな入出庫はもちろん、周辺道路の混雑状況を予測し、場内サイネージでリアルタイムに情報提供することで、大規模な渋滞を未然に防いでいます。来場者に出庫タイミングをずらしたり、空いているルートを選択したりといった行動変容を促すことで、駐車場運営の効率化と顧客満足度の向上を両立させています。

入場ゲートでは、地方のJリーグクラブのホームスタジアムで顔認証による入場・再入場を導入しました。特に効果が顕著だったのが再入場の際です。試合中に一度スタジアムの外に出て、飲食物やグッズを購入してから席に戻るということはよくあるのですが、従来は都度チケットを提示する必要がありました。しかし、両手に荷物を持っていると、チケットを探したり、取り出したりするのが非常に煩わしくなります。このプロセスを顔認証に置き換えたところ、来場者は顔を向けるだけでスムーズに再入場できるようになりました。これにより、再入場ゲートでの混雑が解消されたのはもちろん、来場者の利便性が大幅に向上し、場外店舗での購買意欲を高めるという副次的な効果も見られました。この事例は実証実験という形だったため、仮設の端末で行ったにもかかわらず非常に高い評価をいただきました。現在では常設システムとしての導入が前向きに検討されています。

これらの事例から分かるように、TRASCOPE-AIは、単にカメラとAIを組み合わせただけのシステムではありません。それぞれのスタジアム・アリーナが抱える固有の課題を深く理解し、その解決に最適な形で技術をカスタマイズし、導入から運用までをトータルでサポートするソリューションです。当社は、これからもテクノロジーの力で、すべての来場者にとって最高のスタジアム・アリーナ体験を提供していきたいと考えています。

――せっかくのスタジアム・アリーナ体験、イベントの開催時間だけでなく、その前後においても、より快適に過ごせるかどうかは、ユーザーにとって重要なポイントだ。イベント自体が楽しくても、帰りの渋滞で不愉快な思いをしたら、リピートされないかもしれない。そうならないようにするためには、いかにして混雑緩和を実現するかが重要だ。いまの時代、多数の人員を投入するというのは現実的ではない。システマティックな対応こそが求められるところであり、TRASCOPE-AIは、まさに優れたソリューションだといえるだろう。

お役立ち資料

本記事に関する資料をダウンロードいただけます。

前田 悠太
丸紅I-DIGIOグループ IT基盤サービスセグメント
エッジソリューション事業室
AI営業課 課長
※所属・職名等は記事公開当時のものです。