企業がクラウド活用で直面する“共有・安全性・効率化”の壁とは
建設業界は高齢化と人手不足が進み、業務効率化とセキュリティ確保が急務となっている。鉄鋼製品の専門商社として業界をリードする伊藤忠丸紅住商テクノスチール株式会社(MISTS)は、丸紅I-DIGIOと共にコンテンツ基盤をBoxに統合し、全社活用で成果を上げた。
本記事では、その成果と今後の展望、そして導入を検討する企業に向けたパートナー選びのヒントを、MISTSの石高 伸彦氏(執行役員 コーポレート部門 部門長補佐 兼 情報システム部長)と中沢 亮太氏(情報システム課長)に聞いた。
- オンプレミスサーバーの容量・外部アクセス制約で共有が非効率
- 複数クラウド利用による操作性・アクセス権限のばらつき
- 非構造化データ活用や基盤整備の遅れ
■紙とファイルサーバーの限界──DX基盤としてBoxを選んだ理由
1.DX推進の出発点は、「これまでの当たり前」を見直すことから始まった
MISTSは、大手総合商社3社のネットワークと専門性を強みとする鉄鋼建材専門商社だ。建設用鋼材を中心とした素材販売から工事施工までを幅広く手がけ、建設、土木、エネルギー、インフラなど多様な産業分野に製品を供給。国家的な大規模プロジェクトにも多数参画している。
しかし、石高氏は「建設業界は高齢化が進み、業務効率化や次世代へのノウハウ継承を含むDX推進に拍車がかかり、当社もその流れに沿っての対応が必要と考えています」と話す。

また、複数クラウドの煩雑さやセキュリティリスク、オンプレサーバーの容量制限や拡張コストも負担であった。
「コンテンツ基盤のクラウド化こそ、課題解決の第一歩です」と石高氏。
2.「コンテンツの一元管理 × 高連携性」──Boxが持つ、想像以上のポテンシャル
クラウドストレージへの移行には、多くの企業が少なからず不安を抱える。
クラウド化してもセキュリティは確保できるのか?
ファイルサーバー廃止に現場は対応できるか?
MISTSは、製品の使い方まで検証し、数あるクラウドストレージサービスの中から最終的にBoxを選んだ。MISTSがBoxを選んだ理由について、中沢氏は「無制限容量と世界最高水準のセキュリティ、高いコラボレーション性──Boxで課題を一挙に解決できると判断しました」と説明する。
加えて、将来的なDX推進を見据え、他のシステムとの連携のしやすさも重要な決め手となった。石高氏は「今後DXを進めていく中で、Boxをコンテンツ基盤に他のシステムとスムーズに連携できる点は極めて重要でした」と述べる。また、コンテンツをBoxに集約し、Box AIなど先進的な技術を活用する道筋が描けたことも導入の決め手となった。中沢氏は「他製品との慎重な比較検討の中で、丸紅I-DIGIOはMISTSの課題を正確に捉え、Boxの強みと活用方法を具体的に提案してくれました」と話す。
■「同じBox」でも、導入の質は変わる──パートナー選定が未来を決める
3.成否を分けたのは「導入経験」と「企業姿勢」──選ばれたのは丸紅I-DIGIO
「他の案件で取引しているベンダーに、そのままBoxもセットで任せてしまう──そうしたケースで、失敗事例が少なくないことを事前に把握していました。だからこそ今回は、Boxの導入に必要な経験・ノウハウ・体制を本当に備えているかを軸に、複数ベンダーを徹底比較検討しました」と石高氏は語る。その中で選定されたのが、丸紅I-DIGIOの中核企業の一つである丸紅情報システムズ(以下、MSYS)だ。
導入済みBox環境の再構築や、運用課題の相談を数多く受けてきた丸紅I-DIGIO。その実績がMISTSの安心材料となった。
また、MISTSが重視したのは、Boxをコンテンツ基盤とした情報活用の全体最適の視点だった。
「各部門の課題を踏まえた実行可能な提案に加え、スケジュールやリスクへの要望にも、きちんと応えてくれました」(中沢氏)

圧倒的な導入実績や数百TB規模のデータ移行経験も、選定理由だ。
「Box導入後のサポートや、CSM(カスタマー・サクセス・マネジメント)まで、Boxのライフサイクル全体を支える体制が整っており、大きな安心材料でした。また、同じ業界内に多数の実績があることで、具体的な情報共有や相談のしやすさにもつながりました」と石高氏。
4.日本企業のBox利用に「先回りする」──セキュリティに強いBoxエコソリューション
Box導入にあたり、MISTSが高く評価したのが、丸紅I-DIGIOが提供する独自の「Boxエコソリューション」だ。特に「Light CASB for Box」は、Boxの日常利用の快適さと高いセキュリティを両立し、日本企業特有の運用課題もカバーする。
【Light CASB for Box】主な機能
① 権限自動降格
社外ユーザーが「共同所有者」として招待された場合、自動的に「編集者」に降格し、社外ユーザーに共同所有者権限をもたせることを防ぐ。
② 機密フォルダ保護
指定したフォルダ(例:社内限定フォルダなど)の配下にフォルダが移動された場合、自動でアクセス権を解除し、社外ユーザーの不要なアクセスを防ぐ。
③ マルウェア隔離
マルウェアが検知されたファイルの拡張子を変更する、または隔離フォルダへ移動し、ユーザーが誤ってダウンロードしてしまうことを防止する。
中沢氏は「当社のビジネスには、サプライチェーンとの情報共有が不可欠です。そのため、Light CASB for Boxは、日常的な使いやすさと長期的なセキュリティ確保を両立し、棚卸や点検の工数も最小限に抑えます。運用面でも大きな支えになっています」と評価する。
さらに、エクスプローラーからセキュアにBoxにアクセスできる「cloudrive」といった、ユーザーの利便性を高めるツール群も活用し、現場が無理なくデジタル環境へ移行できる体制を整えた。こうして、定着と効果の実感が加速している。
5.限られた体制でも前倒し達成──現場に寄り添う伴走支援
「プロジェクト開始後、社内ネットワークやセキュリティの現状を分析し、ボトルネックとなり得る課題やリスクを事前に洗い出す中で、通信トラフィック制御やハードウェア見直し、主要拠点のネットワーク負荷分散(オフロード)といった提案で、Box移行後も見据えた、裏付けのある快適な環境を早期構築できました。MSYSならではの強みであると感じています」と中沢氏。
移行プロセスについても、「担当者の変更が重なり、社内リソースの配分がかなり難しい中、タスクを一つひとつ確実に消化できるようフォローしてもらいました。どうしても対応しきれない作業には、さらなる効率化やリカバリー策の提案もあり、手戻り工数はほとんど発生しなかったです」と振り返る。
MISTSとMSYSの協力体制により、当初計画より1ヵ月前倒しで、年明け早々に全社一斉サービスインを実現した。
■全社定着から、データ活用・社外連携へ──“次のフェーズ”に向かうBox活用
6.全社に定着したBox活用──「変わる現場」と「見える未来」
サービスインから約半年。Box導入を社内のペーパーレス化やオフィスのリノベーションとあわせて進めたことで、MISTSにはさまざまな変革が現れ始めている。大きな変化は、「データ資産の集約」だ。「半年で保存データ量は約5倍に。容量制限から解放され全社的な情報集約が一気に加速した」と石高氏。
これまで社内に分散していた情報が集約され、企業としての「データ資産」が着実に蓄積されている。
セキュリティと運用の面でも変化は大きい。
「以前は目的ごとにストレージを使い分けていたため、管理が煩雑で、セキュリティ面の不安もありました。Boxにコンテンツ管理を一元化したことで運用負荷が減り、セキュリティレベルも向上しました」と中沢氏は語る。
さらに、「働きやすさ」の向上も導入効果のひとつだ。建設業界特有の大容量図面データを扱う現場担当者にとって、従来は「重すぎて開けない・送れない」といった制約がつきまとっていた。Boxの導入により、外出先でもストレスなくファイルを操作できるようになったことで、「場所を問わずスムーズに働ける環境が整いました」(石高氏)。
変化の積み重ねが、生産性と組織全体の効率化を押し上げている。
7.Boxを越えて“価値”をつなぐ──サプライチェーン共創の展望
MISTSは、Box導入を単なるITインフラ刷新にとどめることなく、将来的なDX・事業成長のための基盤と位置づけている。
「今後は、活用フェーズとして、Box上に集約したデータとAIなどの技術を掛け合わせ、業務の効率化や意思決定の質向上につなげていく構想を描いています」と中沢氏は語る。
さらに石高氏は「将来的には、サプライチェーン全体での価値創出や新サービス展開まで視野に入れている」と話す。
MISTSは、Boxを事業全体を支える共通ストレージとして捉え、活用の促進を図る。
8.導入企業からの声:「Boxの価値はパートナーで決まる」
今回のBox導入プロジェクトを、MISTSはDXの基盤整備という観点からも、非常に重要な意味を持つものにした。その成功の要因について問われると、石高氏と中沢氏は、いずれも「パートナー選定という最初の段階が非常に重要であった」と述べる。

MISTSは、Box本体の機能はもちろん、パートナー各社が提供する独自のエコソリューションまで、提案内容を丁寧に見極めた。「Light CASB for Box」など、日本企業においてBoxを運用する上で求められる機能の充実は、クラウドサービスを導入する上で、パートナーによって最も大きく差が出る部分である。
さらに、単なるBoxの導入支援にとどまらず、周辺領域を含めた技術的なケアや導入後のサポートまで、広い視野で将来を見据えた支援ができる体制であるかどうかも、選定基準のひとつだった。
「Box導入はゴールではなく、新たな取り組みのスタートです。だからこそ、長期的に伴走できるパートナーが重要です。今回、技術力・実績・企業姿勢のいずれにも納得して、丸紅I-DIGIOに安心してお願いできました」(中沢氏)
クラウドサービスはパートナー次第で価値が大きく変わる。今回の事例はその好例だ。丸紅I-DIGIOとなら、DXの第一歩を安心して踏み出せる。