SAPバージョンアップが急務とされる背景
企業の基幹システムとして多くの企業に導入されているSAP ERPですが、現在そのバージョンアップが急務とされています。その大きな理由として、SAP社が提供する既存システムの標準保守サポート期限が迫っていることが挙げられます。長年利用してきたシステムをそのまま使い続けることは、企業にとって大きなリスクを伴うため、早期の対応が求められる状況です。ここでは、なぜ今バージョンアップが必要とされているのか、その背景について解説します。
| サポート期限の対象 | 期限 | 延長のための条件 |
|---|---|---|
| SAP ERP 6.0 (EhP6以上) | 2027年末 | EhP6以上の適用が必要 |
| SAP ERP 6.0 (延長保守) | 2030年末 | 所定の追加費用の支払いが必要 |
SAP ERP 6.0のサポート終了問題とは
SAP ERP 6.0の標準保守サポートは、当初すべてのバージョンについて2025年末で終了する予定でした。しかし、S/4HANAへの移行が想定より進まなかったことを背景に、SAPは2020年2月、EhP6〜EhP8を適用しているシステムに限り、標準保守の期限を2027年末まで延長すると発表しました。一方、EhP5以下のバージョンについては延長されず、2025年末で標準保守が終了しました。
さらに追加費用を支払うことで、2030年末まで延長保守を受けることも可能な仕組みが用意されました。しかし、いずれにしてもシステムを使い続けるための猶予期間が延びた側面が大きく、根本的な解決には至っていないといえます。この期限を過ぎると、SAP社からの不具合修正プログラムやセキュリティパッチの提供が受けられなくなる点に注意が必要です。そのため、企業はサポート期限までに、システムを最新バージョンにアップデートするか、次世代のシステムへ移行するかを決断することが求められます。
バージョンアップを先送りする経営リスク
システムのバージョンアップを先送りすることは、企業の経営において大きなリスクとなります。サポートが切れたシステムを使い続けると、新たなセキュリティ上の脆弱性が発見された場合に対応できず、サイバー攻撃やデータ漏洩の危険性が高まるためです。また、OSやデータベースなど周辺システムのアップデートにも追従できなくなり、システム全体の動作が不安定になる可能性があります。さらに、古いシステムに依存し続けることで、最新のデジタル技術を取り入れた業務効率化の波に乗り遅れ、市場での競争力を失う懸念も指摘されています。結果として、業務の停止や多大な復旧コストが発生する恐れがあるため、早めの計画立案が重要といえます。
SAPバージョンアップにおける主な選択肢
SAPシステムのバージョンアップを検討する際、企業が選べる方針はいくつか存在します。自社の予算や人的リソース、今後のビジネス展開に合わせて適切な選択をすることが、プロジェクトを成功に導く鍵となるでしょう。ここでは、主に検討される二つの選択肢について、それぞれの特徴とメリットを解説します。
| 選択肢 | 概要 | メリット | 検討すべき課題 |
|---|---|---|---|
| EhP適用 | 既存システムに拡張パッケージを適用する | 比較的短期間・低コストで実施可能 | 根本的なシステムの刷新にはならない |
| SAP S/4HANA移行 | 次世代ERPシステムへ全面的に切り替える | 処理速度の向上と最新機能の活用が可能 | 大規模なプロジェクト体制とコストが必要 |
EhP適用によるサポート期限の延長
一つ目の選択肢は、エンハンスメントパッケージと呼ばれる拡張パッケージを適用し、既存のシステムをアップデートする方法です。このEhP適用をバージョン6以上に引き上げることで、標準保守サポートの期限を2027年末まで延長することが可能になります。この手法は、システムを全面的に刷新するわけではないため、業務プロセスへの影響を最小限に抑えつつ、比較的短期間で対応できるという利点があります。ユーザーの操作画面や業務フローが大きく変わらないため、現場の従業員に対する再教育のコストを抑えられる点も魅力的です。ただし、これはあくまで一時的な延命措置であるため、将来的な新システムへの移行計画は引き続き検討していく体制が求められます。
SAP S/4HANAへのシステム移行
二つ目の選択肢は、SAP社の次世代ERPであるSAP S/4HANAへシステムをコンバージョンするという方法です。SAP S/4HANAは、インメモリデータベースを採用しており、膨大なデータの高速処理やリアルタイムな分析が可能となります。この移行を実施することで、企業はデジタルトランスフォーメーションを推進し、競争力の強化につなげることが期待できます。従来のバッチ処理にかかっていた時間を大幅に短縮できるとされており、経営陣が迅速な意思決定を行うためのデータ基盤としての活用が期待されます。一方で、既存の独自開発プログラムであるアドオンの修正や、業務プロセスの見直しが必要となるため、十分な準備期間とリソースの確保が求められます。
SAPバージョンアップを進めるための手順
システムの方針が決定した後は、具体的なプロジェクトの計画と実行へと移ります。バージョンアップ作業は、企業の根幹を支えるシステムに手を加えるため、慎重かつ段階的に進める必要があります。ここでは、プロジェクトを安全に進行させるための初期手順を見ていきましょう。
| ステップ | 作業内容 | 目的 |
|---|---|---|
| アセスメント | 現行システムの影響範囲を調査する | 移行にかかるコストや工数の正確な把握 |
| 計画策定 | プロジェクト体制とスケジュールを決定する | 社内およびベンダーとの役割分担の明確化 |
| テスト実行 | 新環境での動作確認を行う | 業務停止リスクの低減と品質保証 |
現行システムのアドオン影響分析
バージョンアップの最初のステップとして欠かせないのが、現行システムに組み込まれているアドオンプログラムの影響分析です。長年利用してきたシステムには、自社の業務に合わせた多数のカスタマイズが施されており、バージョンアップによってそれらが正常に動作しなくなる可能性があります。そのため、専用の分析ツールなどを活用して、どのプログラムに修正が必要かを洗い出す作業を行うことが推奨されます。プログラムのコードレベルで修正箇所を特定し、新しい環境での互換性を検証していくアプローチが有効です。この影響範囲を正確に把握することで、後のテスト工程の負担を軽減し、プロジェクト全体のコストを適切に見積もることができます。
ベンダー選定とプロジェクト計画の策定
影響分析の結果をもとに、実際の作業を依頼するITベンダーの選定とプロジェクト計画の策定を行います。SAPのバージョンアップには高度な専門知識が必要となるため、自社の課題に合った提案力と実績を持つベンダーを選定することが重要です。ベンダーから提出された提案書や見積もりを比較検討し、予算やスケジュールが妥当であるかを確認するプロセスが欠かせません。計画策定の段階で、社内の関連部門との調整を行い、システム停止を伴う移行作業の日程を事前にすり合わせておくことが円滑な進行につながります。
バージョンアップを成功させるための注意点
SAPバージョンアップのプロジェクトは規模が大きくなりやすく、予期せぬ落とし穴も存在します。計画通りに進めるためには、外部環境の変化や特有のリスクを事前に理解し、対策を講じておくことが求められる状況です。ここでは、プロジェクトを推進するうえで特に気を付けるべきポイントについて解説します。
| リスク要因 | 発生しうる問題 | 事前の対策 |
|---|---|---|
| ベンダー不足 | 希望する時期に作業を依頼できない | 早急な要件定義と早めの契約交渉 |
| スケジュール遅延 | 業務に影響を及ぼすシステム停止の延長 | 余裕を持った移行期間とテスト計画の策定 |
| ツール利用制限 | 第三者保守移行により標準ツールが使えない | 長期的なS/4HANA移行を見据えた保守方針の決定 |
ベンダーリソース枯渇への早期対応
現在、多くの企業が同じタイミングでSAPシステムのバージョンアップを検討しているため、対応可能なITベンダーのエンジニアが不足する事態が懸念されています。いわゆる駆け込み需要が発生しており、希望するスケジュールでプロジェクトを開始できないという企業も少なくありません。この問題に対処するためには、情報収集や社内稟議のスピードを上げ、可能な限り早くベンダーへの相談や見積もり依頼を行うことが大切です。早期にパートナーを確保できれば、余裕を持ったスケジュールで安全にシステムを移行できます。
第三者保守サービスの活用とリスク
コスト削減の手段として、SAP社以外の企業が提供する第三者保守サービスを利用するという選択肢もあります。標準保守の期限が切れた後でもシステムの運用を維持しつつ、保守費用を抑えられる点が特徴です。しかし、第三者保守に移行した場合、SAP社が提供する標準的な分析ツールや移行ツールが利用できなくなるという点に注意しなくてはいけません。将来的にSAP S/4HANAへの移行を検討する際、これらのツールが使えないことで移行作業の難易度が上がる可能性があるため、長期的なロードマップを考慮して判断することが重要です。
SAPバージョンアップの企業事例
実際にSAPバージョンアップやS/4HANAへの移行を成功させた企業の事例を知ることは、自社のプロジェクトを計画するうえで非常に参考になります。アスクル株式会社は、既存の「SAP ECC」から「SAP S/4HANA」へのシステム移行を実施しました。同社は国内屈指のデータ量とトランザクションを抱えるECサイトを運営する企業です。顧客が利用するECサイトの稼働はそのまま維持しつつ、基幹システムの移行に伴うダウンタイムを21時間に抑えて完了させました。このシステム刷新により、お客様へより高度なサービスを提供する基盤が整ったとのことです。
基幹システムをSAP S/4HANAへ移行 | ASKUL Transformation with Digital
まとめ
この記事の要点をまとめます。
- SAP ERP 6.0の標準保守期限に対応するため、早急なバージョンアップ計画の立案が重要である
- バージョンアップの選択肢には、EhP適用による保守延長とSAP S/4HANAへのコンバージョンがある
- 成功のためには、アドオンの影響分析を正確に行い、早めにベンダーのリソースを確保することが求められる
- 第三者保守の利用はコスト削減に寄与する一方で、将来的な移行ツールが使えなくなるリスクを伴う
自社の状況に合った適切な移行手法を選択し、計画的なシステム刷新を進めていきましょう。
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