屋内測位とは
近年、企業のDXが推進される中で、オフィスや工場、物流倉庫などにおける業務効率化の手段として位置情報の活用が注目を集めています。国土交通省も高精度測位社会プロジェクトを推進しており、屋内外を問わずシームレスに位置情報を活用できる環境の整備が進められている状況です。こうした背景から、屋内測位に対する関心が急速に高まっています。
スマートフォンの地図アプリなどで日常的に使われているGPSは、宇宙空間にある人工衛星からの電波を受信して位置を特定する仕組みです。そのため、厚い壁や天井に阻まれる屋内の環境においては、電波が遮断されてしまい正しい位置を計算することができません。
そこで、屋内の環境に合わせて別の電波やセンサーを用いることで、現在地を割り出すのが屋内測位の役割となります。
地理空間情報:高精度測位社会プロジェクト - 国土交通省
屋内測位の基本的な仕組みと役割
屋内測位は、あらかじめ建物の中に設置した送信機からの信号を、スマートフォンや専用の受信機で受け取ることで位置を推定する仕組みを採用しています。
または、人やモノに発信機と呼ばれる小さなタグを取り付け、施設側に設置した複数のアンテナでその信号を受信して位置を特定する方式も広く使われている手法です。
屋内測位の役割は、リアルタイムで現在の場所を知るだけにとどまるものではありません。過去の移動履歴や特定の場所における滞在時間をデータとしてシステムに蓄積できることも、ビジネスにおいて大きな役割を果たします。
たとえば、工場内の作業員の動線を分析して無駄な歩行距離を減らしたり、商業施設で顧客がどの売り場に長く滞在しているかを分析したりすることが可能です。このように、取得した位置情報を客観的なデータとして分析し、現場の業務改善や新たなマーケティング施策の立案に役立てることも、屋内測位を導入するねらいの一つといえるでしょう。
GPSが屋内で使えない理由と屋内測位の必要性
GPSは地球の周りを回る人工衛星からの微弱な電波を受信するため、上空に遮るものがない屋外の開けた場所でとくに効果を発揮する技術です。しかし、コンクリートの壁や金属製の屋根で覆われている建物の中では、電波が反射や減衰を起こしてしまい、受信端末まで信号が正しく届かないため正確な位置情報を取得できません。窓際であればある程度受信できることもありますが、建物の奥深くや地下空間ではほとんど電波が届かなくなるのが実情となります。
一方で、現代のビジネスにおいては、巨大な倉庫内でのフォークリフトの安全管理や、広大なオフィスにおける社員の円滑なコミュニケーションなど、屋内空間における正確な位置情報が強く求められる場面が増加しています。そこで、GPSの弱点を補完し、建物の中でも途切れることなく位置情報をシームレスに活用するために、さまざまな通信技術を活用した屋内測位のシステムが必要とされている状況です。
| 比較項目 | GPS(全地球測位システム) | 屋内測位システム |
|---|---|---|
| 主な利用場所 | 屋外の開けた場所 | 建物の中や地下 |
| 電波の送信元 | 宇宙の人工衛星 | 屋内に設置した通信機器 |
| 得意なこと | 地球規模での広域な位置特定 | 限られた空間内での詳細な位置特定 |
| 導入のハードル | 端末があればすぐに利用できる | 施設側に機器の設置や設定が必要 |
屋内測位を支える代表的な技術と特徴
屋内測位には、電波の特性やセンサーの仕組みを活用したさまざまな通信技術が用いられており、それぞれの環境に応じた最適なものを選ぶことが重要です。現場が求める位置情報の精度や、導入にかけられる予算に応じて、適切な技術方式は大きく変わります。
ここでは、現在主流となっている技術の仕組みと、それぞれの特徴について詳しく解説します。
導入コストが低く手軽なWi-Fi測位とBLEビーコン
Wi-Fi測位は、施設内に設置された複数のアクセスポイントから受信する電波の強さを計測して位置を計算する仕組みを採用しています。
多くのオフィスや商業施設ではすでにインターネット接続のためのWi-Fi通信環境が整備されているため、新たな機器を大規模に設置する手間が省け、初期費用を抑えて手軽に導入できるという利点を持っています。
位置の誤差は環境によって数メートルから十数メートル程度発生することが多いですが、社員がどのフロアにいるかを把握したり、大まかなエリアの混雑度を可視化したりする用途には十分に対応可能です。
また、BLEビーコンは、低消費電力で通信できるBluetoothの電波を発信する、手のひらサイズの小型機器を利用する測位手法です。ビーコン自体が非常に安価であり、内蔵されたボタン電池で数ヶ月から数年程度稼働するものが多く、大掛かりな配線工事をせずに天井や壁に貼り付けるだけで設置できる手軽さが評価されています。
高精度な位置把握が可能なUWB超広帯域無線
UWBは超広帯域無線通信と呼ばれる技術であり、その名前の通り非常に広い周波数の帯域を使って短い信号を連続して送信する特徴があります。
この技術を用いると、電波が送信されてから受信されるまでの時間を非常に高い精度で測定できるため、誤差が数十センチから数センチという極めて正確な位置特定が可能になります。たとえば、製造業の現場で細かな部品が置かれている棚を正確に管理したい場合や、建設現場で重機と作業員の接近を検知して事故を防ぎたい場合などに適しています。
また、他の無線の電波と干渉しにくい性質を持っているため、多数の機械が稼働している複雑な環境でも安定した測位が期待できる技術です。
精度の高さが大きな魅力である半面、専用のアンテナや受信機器を施設内に新たに構築することが多いため、Wi-FiやBLEビーコンと比較すると初期の導入費用は高くなりやすい傾向があります。
その他の注目技術としてRFIDや地磁気測位
電波を用いて専用のタグの情報を非接触で読み取るRFIDも、屋内測位の技術として多くの現場で活用されています。
たとえば、物流倉庫の出入り口や特定の通路にゲート型のアンテナを設置しておき、RFIDタグの付いた荷物やパレットがそこを通過した瞬間に位置情報をシステムに記録するといった使い方が一般的です。特定の地点を通過したタイミングの把握に優れているため、入出庫の管理や工程間の移動履歴の記録などに適した手法となります。
また、地球が発している自然の磁力である地磁気の乱れを利用して位置を割り出す、地磁気測位というユニークな技術も存在します。鉄骨が使われている建物の中では、場所ごとに特有の磁気パターンが生じるため、そのパターンをスマートフォンの内蔵センサーで読み取ることで現在位置を推定します。この方法は新たな通信機器を設置しなくても導入できる場合があるため、大規模な商業施設でのナビゲーションなどに活用されている技術です。
| 測位技術 | 位置の精度 | 導入コストの目安 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| Wi-Fi測位 | 数メートル〜十数メートル | 比較的安価 | 既存の通信設備を活用しやすい |
| BLEビーコン | 1メートル〜数メートル | 比較的安価 | 配線不要で小型の機器を設置できる |
| UWB | 数センチ〜数十センチ | やや高額 | 誤差が少なく正確に検知できる |
| RFID | アンテナの通過範囲内 | 安価(タグ単体) | ゲートを通過した瞬間の記録が得意 |
屋内測位の具体的な活用事例
屋内測位技術は、ナビゲーションのほか、多様なサービス提供の基盤として活用が進んでいます。国土交通省「屋内地図/屋内測位環境構築の手引き」(令和4年3月)に掲載された2つの事例をご紹介します。
複雑な大規模ターミナル駅でのシームレスナビ
東京駅は地下5階から地上3階までの複数階層を持つ大規模ターミナル駅であり、道案内に関する問い合わせが多いという課題がありました。この課題解決を目的に、JR東日本クロスステーション・JR東日本コンサルタンツが開発したのが「東京ステーションナビ」です。Wi-FiおよびBLEビーコンを組み合わせた屋内測位により、改札内外のシームレスなナビゲーションを実現しています。ベビーカー・車いす対応の段差解消ルート案内、店舗・トイレの混雑状況やコインロッカーの満空情報のリアルタイム発信など多彩な機能を搭載しており、2022年2月時点での総ダウンロード数は約96,000件に達しています。
国土交通省「屋内地図/屋内測位環境構築の手引き」
国内空港初の高精度屋内ナビを3ターミナルで実現
国土交通省と成田国際空港株式会社が連携し、第1〜第3旅客ターミナルを対象に屋内地図の整備と測位環境の構築を実施しました。
成田国際空港株式会社は設計に基づきBLEビーコン495個を設置し、地磁気を組み合わせた測位環境を整備。これを活用して開発されたのが「NariNAVI」で、地磁気によるリアルタイムの現在地把握と、複数フロアにまたがる立体的な2.5D表現により、直感的に使いやすいUIを実現した国内空港初の高精度屋内ナビゲーションアプリです。
国土交通省「屋内地図/屋内測位環境構築の手引き」
屋内測位システムを導入する際の選び方と注意点
自社に合った屋内測位システムを選ぶためには、技術ごとの特徴を理解した上で、導入の目的に照らし合わせることが重要です。システムを導入したものの、期待した成果が得られないという事態を防ぐために、失敗しないための選び方のポイントを解説します。
| 確認するポイント | 検討内容の例 | 選び方の基準 |
|---|---|---|
| 測位の精度 | 何メートルの誤差まで許容できるか | 用途がエリア把握か、厳密な個体管理か |
| コストの許容範囲 | 初期費用と月額の運用費用はいくらか | 予算内に収まる技術方式を選択する |
| 既存設備の活用 | 現在のWi-Fi網をそのまま使えるか | 使える場合はWi-Fi測位を優先検討する |
| システムの連携 | 自社の業務システムとデータ連携できるか | 連携のしやすさを確認する |
求める測位精度と導入コストのバランス
自社に合った屋内測位システムを選ぶ際に考えるべき最初の基準は、現場の業務においてどの程度の精度が必要なのかを明確にすることです。
たとえば、工場内で工具や小さな部品が置かれている場所を数十センチ単位で厳密に管理したい場合は、誤差が非常に少ないUWBのような高精度な技術を選ぶ必要があります。
一方で、オフィス内で特定の社員がどのフロアのどのエリアにいるのかが分かれば十分という要件であれば、Wi-FiやBLEビーコンで十分に目的を果たせます。
高い精度を求めれば求めるほど、専用の通信機器や詳細な事前の電波測定、大掛かりな配線工事が必要になるため、導入にかかる費用も高額になりやすい傾向にあります。そのため、目的と予算のバランスを見極め、過剰な設備投資にならないよう選定することが大切です。
既存ネットワークや設備との連携方法
施設にすでに導入されているネットワーク環境や設備をいかに活用できるかも、システム選びを成功させるための重要なポイントです。
オフィスや商業施設に十分な数のWi-Fiアクセスポイントがすでに設置されている場合は、それをそのまま屋内測位の通信網として流用することで、初期の設備投資を大幅に抑えられます。
また、取得した位置情報をただ画面上で確認するだけでなく、自社の勤怠管理システムや在庫管理システム、入退室のセキュリティシステムとどのように連動させるかも事前に確認しておく必要があります。単に現在位置を把握するだけでなく、既存の業務システムとスムーズにデータ連携できるサービスを選ぶことで、作業日報の自動化や稼働率の分析といった、より大きな業務改善効果を期待できるでしょう。
まとめ
屋内測位システムの基本的な仕組みから技術の種類、選び方のポイントまでをまとめます。
- 屋内測位はGPSが届かない建物の中で人やモノの位置を把握する技術である
- 導入コストを抑えるならWi-FiやBLEビーコンが適している
- 数十センチ単位の高い精度が求められる現場にはUWBが向いている
- 導入の際は求める精度と予算のバランスを見極めることが重要である
自社の業務課題に適した技術を選定し、業務の効率化や新しい価値の創出に向けた検討を進めてみてください。
なかでも、導入コストと測位精度のバランスに優れたBLEビーコン方式は、工場や倉庫、病院、オフィスなど幅広い施設で活用されています。人や車両、資産の位置情報をリアルタイムに把握することで、作業効率の向上や安全管理の強化、設備利用状況の可視化などにつなげることが可能です。
丸紅I-DIGIOグループが提供する位置情報プラットフォーム「iField」は、BLEビーコンを活用して屋内施設での人や車両・モノの動きをマップ上でリアルタイムに可視化できるソリューションです。リアルタイムの把握だけでなく、動線分析やあらかじめ設定したエリアごとの滞在時間分析にも対応しており、作業に要している時間や作業者ごとの習熟度、無駄な移動の発見に役立ちます。取得した位置情報は業務改善のためのデータとして活用できるため、現場の生産性向上や業務標準化の推進にも貢献します。
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