国内外での住宅事業や、木材建材製造・流通事業などを展開する住友林業グループの中にあって、唯一IT関連事業を担当しているのが、住友林業情報システム株式会社(以下、住友林業情報システム)である。
住友林業情報システムは、グループ各社が利用する情報システム開発や保守だけでなく、システムに関する問い合わせ対応なども担っており、ユーザサポートのFAQ充実やチャットボット整備などの検討を進めている。
それらの施策を検討する時間を確保するために、既存の問い合わせ対応業務を効率化するにあたり、住友林業情報システムが導入したのが、コールセンター向け音声テキスト化サービス「MSYS Omnis(エムシス オムニス)」(以下、Omnis)だ。
Omnis導入の経緯や導入後の効果、今後の展開などについて、住友林業情報システム ICTビジネスサービス部の青村 善行グループリーダー、同部の手塚 遥斗チーフ、同部 佐藤 大介氏の3名にお話を伺った。
- アフターコールワークにかかる業務負荷を軽減したい
- オペレータとスーパーバイザのコミュニケーションを円滑にし、効率化させたい
■Omnis導入の背景
1. グループ企業や取引先向けのシステム開発・運用と、そのサポートを担当
国内外での住宅事業や、木材建材製造・流通事業をはじめ、森林事業やバイオマス発電事業など幅広い事業を展開する住友林業グループの中にあって、唯一IT関連事業を担当している住友林業情報システム。
グループ各社が使う情報システムなどについて、企画から設計・開発、そして保守・運用までを一貫して提供し、問い合わせ対応などのヘルプデスクサービス、いわゆるコールセンター業務も担っている。
「当社が開発したシステムなどは、グループ各社が利用することはもちろんですが、取引先である工務店などの施工関連会社にもご利用いただくことがあり、ヘルプデスクにはそうしたユーザからの問い合わせなども寄せられます。そのため、かなりの件数の問い合わせに対応することになります」と手塚チーフがいうように、グループ各社だけでなく、取引先企業へのサポートも重要な役割になっているのだ。

「以前は、住友林業グループ各社のサポート担当と、工務店などの取引先のサポート担当とは別の部署でした。それが先ごろ、組織を再編する中で、同じ部署に統合され、現在は一体的な組織体制になっています。Omnisを導入した当初は、グループ各社のサポートチームのみでの導入でした。Omnisの導入による十分な成果が得られたので、現在、工務店などのサポートチームへの横展開を進めている段階です」と青村グループリーダーは話す。
2. より円滑なサポート対応の拡充に向け、問い合わせ対応業務の効率化が急務に
ユーザサポートを担うICTビジネスサービス部では、日々多くの問い合わせなどに対応することはもちろん重要だが、さらに今後の3年、5年といった将来を見据えた取り組みにも注力していこうとしている。
青村グループリーダーは次のように話す。
「以前から、ユーザサポートの品質を向上できる仕組みについて検討を続けていました。住友林業グループだけで約1万8千人の従業員がいて、さらに工務店などの取引先の一部にもシステムをご利用いただいています。そうした方々からもシステムに関するお問い合わせなどが寄せられます。人的対応だけでは十分な対応が難しいということもあり、FAQの充実やチャットボットの活用などの取り組みを加速させようと考えました。ユーザがわざわざ電話をしなくても、一定の課題解決や疑問解消ができる仕組みがあれば、ユーザの利便性も向上します。しかし、問い合わせ対応だけで手一杯な状況では、FAQやチャットボットを整備するための時間確保が難しいという課題に直面しました」
そこで住友林業情報システムが導入したのが、丸紅情報システムズ株式会社(以下、MSYS)が展開する、コールセンター向け音声テキスト化サービス「Omnis」だ。住友林業情報システムの問い合わせ窓口となるヘルプデスクでの対応業務を効率化し、時間を有効活用できるようにすることで、FAQの充実やチャットボットの整備を加速しようと考えたのである。
「問い合わせ対応業務の中でも、最も負荷が大きかったのはアフターコールワークでした。担当オペレータが通話録音を確認しながら内容を要約し、レポート化する作業に、1件あたり8分30秒を費やしており、非常に負担となっていました。そのため、このアフターコールワークを軽減するために、AIなどにより通話内容を自動で要約できる仕組みを導入したいと考えました」と手塚チーフがOmnis導入の背景を説明する。
実は、最初からOmnisに決めていたわけではなく、競合する別のソリューションとも比較検討を行ったと手塚チーフは教えてくれた。

「今回は、通話内容をいかに効率的に要約できるか、それによってアフターコールワークをどれだけ軽減できるか、がポイントでした。その点で、Omnisは生成AIを使った要約機能が一体的にサービスとしてパッケージ化されていたのがとても魅力的でした。競合他社の場合、要約機能が別立てになっていて、少々手間がかかる印象でした。また、単語登録をはじめとする要約機能以外のスペックでも、Omnisに優位性があると判断し、導入を決定しました」
■Omnis導入による課題解決
3. 導入決定から稼働までの円滑な対応に満足
2024年春ごろにOmnisの導入を決定し、そこから本番環境を構築するまでに要した期間はわずか数か月程度で、同年8月には稼働までたどり着いている。
「クラウドサービスの利点もあると思いますが、MSYSには非常にスピーディーに対応いただき、予想以上に短期間で構築していただけて助かりました。ただ、8月に本番環境が整ったとはいえ、そこから内部のスタッフによる動作確認や、プロンプト調整などの作業を経て、本格稼働は9月からでした。稼働までが非常に迅速で、MSYSの対応には満足しています」と手塚チーフはMSYSの対応を評価した。
4. アフターコールワークが大幅に軽減
「昨年9月に本格稼働してから、10か月ほど実稼働していますが、当初の目的であったアフターコールワークの軽減については、大きな成果が出ています。Omnis導入以前は、1件あたりのアフターコールワークに平均で8分30秒費やしていましたが、導入後半年程度の平均では、3分にまで短縮できました」と手塚チーフは頬を緩ませた。
従来に比べて、アフターコールワークを半分以下にまで軽減できたことで、FAQの充実やチャットボットの整備といった、将来に向けた取り組みに十分な時間が確保できるようになったという。
さらに、問い合わせ対応の中でオペレータがスーパーバイザにエスカレーションする場合、これまではオペレータが通話内容や確認事項をメモにまとめてからスーパーバイザに相談していた。スーパーバイザはそのメモを読み込んで、要点を把握してからでなければ、オペレータに適切な指示を出すことができない。これが意外に時間のかかる作業であったという。
「こうした場面でも、生成AIによる要約機能が活躍しています。通話内容がスピーディーに要約されますので、プリントアウトや、ツールを使ってスーパーバイザに送信して見てもらうことが簡単にできるようになりました。ベテランオペレータはメモの要点をうまくまとめられますが、新人オペレータの場合はそうはいかないこともあります。しかしOmnisの要約機能は均質なアウトプットをしてくれるので、オペレータの習熟度による差が出ません。要約機能により、オペレータとスーパーバイザのコミュニケーションもスムーズになり、この点でも業務効率化、時間短縮につながっています」と手塚チーフはいう。
さらに、Omnis導入に携わり、自身もオペレーション経験を持つ佐藤氏もOmnisの導入による副次的な効果があったと話す。

「新人オペレータは、一定の研修を受けてから現場に出るのですが、いざ電話対応となると、システムの専門用語や住友林業グループ独自の用語、建築施工に関する専門用語などが矢継ぎ早に出てくるため、どうしても戸惑います。スーパーバイザに相談するためのメモ作成や、アフターコールワークでの要約作業も、どうしても時間がかかります。しかし、Omnisの要約はスムーズで、逆にその要約を見て、オペレータ自身が知識を確認できるといった副次効果もありました。
Omnisは、通話の最中にオペレータとユーザの発言を分けて文字起こしをしてくれます。通話後に特定のところを確認したい場合も、従来は録音データを最初から聞き直す必要がありましたが、Omnisなら文字起こしのテキストを見ながら、ピンポイントで音声確認ができるので、この点でも業務効率化につながっています。
また、NGワードの登録なども可能で、万が一、オペレータがNGワードを発した場合は該当箇所がハイライトされ、指摘してくれます。こうした機能は教育効果という点でも有効だと考えています」
Omnisの導入によって、アフターコールワークだけでなく、問い合わせ対応業務全体の効率改善や時間短縮が実現していることを、多くの現場スタッフが実感しているという。
■さらなる活用拡大に向けて
5. MSYSのさらなる情報提供にも期待
冒頭でも触れた通り、グループ各社へのサポート窓口で先行導入されたOmnisだが、現在、工務店などの取引先のサポートにも横展開すべく、準備を進めているという。
「導入時のMSYSの対応はもちろん、稼働後も、些細な疑問や不明点等が発生した際に、非常に迅速に対応してくれるので、とても助かっています」と手塚チーフはいう。
ただ、今後さらにOmnisを拡大活用する上では、より多くの情報提供に期待しているという。
「当然のことですが、Omnisは当社だけでなく多くのコールセンターなどで使われていると思います。そうした多くの事例を通じて、MSYSにはノウハウや知見が蓄積されていると思いますので、そういった知見やノウハウをもっと情報提供していただきたいなと思っています。私たちが気づかなかった活用方法や、効率化のヒントなどがあれば、ぜひ知りたいです。それがさらなる有効活用につながると思っています。
また当社としては、Omnisの導入がゴールではなく、今後もさらに有効活用していきたいですし、プラスアルファの提案もMSYSに期待しています」と手塚チーフは、今後の展開についても前向きに話してくれた。
Omnisをさらに活用していくことで、住友林業情報システムのヘルプデスクは、今後ますますユーザに優しい存在になっていくことだろう。




