デジタル画像相関法(DIC)とは?新しい画像計測技術の原理や応用分野について解説

デジタル画像相関法(DIC:Digital Image Correlation)とは、物体表面に描かれた変形前後のランダムパターン画像をカメラで撮影し、デジタル画像処理技術を用いて物体表面の変位やひずみ、応力などを評価分析する手法です。材料試験、機械工学、土木、医療工学、地質学など、さまざまな分野で使用されています。本稿では、本テクノロジーについての基本的な原理や利点、応用分野について解説します。

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デジタル画像相関法(DIC)とは?

デジタル画像相関法(DIC)は1980年代に開発された画像解析による全視野・非接触のひずみ分布計測技術です。2000年代後半から2010年代にかけて、デジタルカメラの高解像度化、コンピュータの演算能力向上、CAE技術の進歩とともに急速に発展し、現在では学術・産業分野で広く利用されています。

この発展の背景には、2000年代に入り産業分野でCAE※の利用が拡大したことが大きく関係しています。従来、CAEの予測結果の検証実験に用いられる計測手法は、ひずみゲージをはじめとした有線・単一ポイントによる計測でした。これらの結果は一点・一方向の数値情報しか得られないため、測定・評価が困難な場合が多く、わずかなズレでも誤差や信頼性を大きく低下させるという課題がありました。

デジタル画像相関法(DIC)を用いることで、ひずみだけでなく「変位」と「応力」のデータも測定できるようになりました。得られる測定結果は全視野においてCAEで得られる測定結果と類似し、迅速かつ高い信頼性で直接的に評価検証が可能になったことから、本テクノロジーの導入が進む大きな推進力となりました。

※CAE(Computer Aided Engineering)とは、製品設計、製造、予備工程設計の検討など、コンピュータ支援によるエンジニアリング作業と、その作業に使用されるツールのことを指します。

CAEとDICの測定結果

デジタル画像相関法(DIC)の手法(計測方法)

デジタル画像相関法(DIC)の具体的な手法について解説します。

ランダムパターンの塗布

デジタル画像相関法(DIC)の具体的な流れは、測定対象物の表面に塗布された白黒のまだら模様をモノクロのデジタルカメラで撮影し、画像解析から変形前後の変位とひずみ分布を算出するものです。

「ランダムパターン」や「ストキャスティックパターン」、あるいは「スペックルパターン」と呼ばれる、この白と黒のまだら模様さえ対象表面に塗布できれば、スプレー、ブラシ、ペン、スタンプ、ハンディインクジェットプリンタなど、どのような方法で塗布しても問題ありません。対象が高温となる場合でも、耐熱性のある塗料を用いることで計測することができます。 パターンの粒径は撮影視野とカメラの解像度に依存します。理想的な粒径の大きさは画像上で3~7ピクセルで、画像全体の黒と白の比率はそれぞれ50%となるように塗布することが推奨されています。

サブセットのパターンマッチング

デジタル画像相関法(DIC)の計算プロセスについて解説します。

まず、まだら模様が塗布された対象の変形過程を撮影し、変形前の状態を基準画像として、画像内に「サブセット」(またはファセット)と呼ばれる、数十画素程度の小さな矩形領域を作ります。そして、サブセット内のまだら模様による各画素の濃淡値(輝度)の分布の情報を取得し、この濃淡値分布の変形過程のパターンマッチングを時系列順に行います。こうすることで全画像に渡ってサブセットの位置を追跡し、その中心点の運動を特定し計測をします。なお、サブセットに少なくとも3つの斑点があることが望ましく、サブセットが大きいほど、その場所での一意性、つまり座標測定精度が向上します。一方、境界部などの空間分解能の低下と計算時間の増大を招くトレードオフの関係にあります。

隣接するサブセットについても同様に追跡し、これを画像全域で繰り返すことで、最終的にはサブセット中心点を計測点(標点は有限要素解析でいうところの節点)とした、測定物表面の局所変形に追従したメッシュが、各画像のランダムパターン上に形成されます。全領域の変位場とひずみ場が得られることで、CAEで表示されるようなひずみや応力の分布が計測結果として表示されます。

この時のパターンマッチングにより求める座標をサブピクセル精度の正確性で得るために、「非線形最適化技術」、「フーリエ変換解析」、「ニュートンラフソン法」、「最小二乗マッチング」「遺伝的アルゴリズム」「ニューラルネットワーク」といった、様々な方法に基づくアルゴリズムが開発されています。 いずれもこのデジタル画像上での一連のパターンマッチング処理に相関関数が用いられることから、これらはデジタル画像相関法(DIC)と呼ばれています。

デジタルカメラ2台による同期撮影(ステレオDIC)

デジタルカメラ1台によるDICでは、画像の奥行き方向の変化を追跡できないため、画像面内に投影された二次元(2D)の変位をひずみとして分析することになります。このとき、たとえば対象がカメラに近づいただけで、大きく膨張して伸びたように見えてしまうため、対象が画像奥行方向の動きをする場合には正確な計測ができません。

一方、2台のデジタルカメラを所定の相対距離と相対角度に固定し、同期撮影が可能なステレオカメラとして構成すれば、三角測量の原理によって左右2枚のカメラ画像から対象表面上における任意の点の三次元座標情報を高精度に得ることができます。すなわち、デジタル画像相関法(DIC)におけるパターンマッチング処理においても、左右のカメラ画像についても行うことで、三角測量による標点の三次元座標とその変化が正確に取得できます。

この2種類のパターンマッチング処理の結果、撮像タイミングごとの各変形過程において毎時の三次元形状を持つメッシュデータが得られ、画像奥行き方向の変化も正確にとらえることができます。この手法をステレオDIC、あるいは3D DICと呼びます。

デジタル画像相関法(DIC)のメリット

デジタル画像相関法(DIC)のメリットについて3点解説します。

非接触全視野計測

計測は非接触で行われるため、対象物への物理的特性に影響を与えることなく計測することができます。ゴム、樹脂、繊維などの軟質材料や、衝突試験のような過渡的に大きな変形を起こす対象物を連続的に測定することが可能です。また、測定結果は視野全体のひずみ分布として得られるため、前述の通りCAE解析結果の検証に非常に有効です。

高精度

デジタル画像相関法(DIC)は、多くの場合、高解像度のデジタル画像と、サブピクセル精度で座標を取得・評価するアルゴリズムを使用するため、測定精度が非常に高くなります。視野によっては、数ミクロンの微小な変位や変形も検出できます。ただし、そのためにはステレオカメラを用いたステレオDICによる三次元表面計測が推奨されます。

多目的性

デジタル画像相関法(DIC)は多くの分野で利用でき、汎用性が非常に高いです。材料評価、構造物の健全性評価、医療分野における生体組織の変形解析、機械工学における耐久性評価など、さまざまな用途に適用が可能です。そのため、異分野の専門家が同じ技術を使い、情報を共有できる環境が整えられています。

デジタル画像相関法(DIC) のデメリット

デジタル画像相関法(DIC)のデメリットについて3点解説します。

高度な画像処理と計算が必要

デジタル画像相関法(DIC)は高度な画像処理と計算を必要とするため、計算リソースと適切なソフトウェアやハードウェアが必要です。特に高解像度画像やハイスピードカメラによる高フレームレートの画像の解析する場合、計算コスト高くなることがあります。しかし近年、コンピュータの性能向上やGPU処理の採用により、このデメリットは解消されつつあります。

限定された観測条件

デジタル画像相関法(DIC)は特定の観測条件でのみ有効です。まず、前提としてカメラで撮影できる必要があります。内部構造の測定など、カメラが設置できない箇所の測定は困難です。また、画像にピントが合っていること、撮影されたランダムパターン画像に十分なコントラストがあることも必要です。さらに、動いているものを撮影する場合は、画像がブレないように光学系やライティングのセッティングを適切にする必要があります。

データの処理とノイズへの感受性

デジタル画像相関法(DIC)は画像データの品質に敏感であり、画像ノイズや条件の悪さは測定誤差の原因となります。安定した精度で測定するためには、高品質な非圧縮画像データの取得とノイズの除去が必要であり、ノウハウや技術が必要となる場合があります。

商用製品の中には、画像ノイズを低減するために最適化されたハードウェアや、そうしたノイズを最初から適切に除去する機能を備えたソフトウェアがあり、これらの機能を活用することで、特別な技術やノウハウを必要とせず、安定した精度で測定することができます。 一方、こうした調整が必要な商用製品や、オープンソースのソフトウエアと、独自に用意された研究用の光学系を使用する場合は、使用者のノウハウやスキルによって精度が左右される可能性があります。

デジタル画像相関法(DIC)の応用分野

デジタル画像相関法(DIC)は様々な分野で既に幅広く活用されています。特によく使われているいくつかの分野における活用例を挙げて解説します。

材料分野

材料の機械的特性を同定するための引張試験をはじめ、様々な材料試験に活用することができます。金属やプラスチックだけでなく、ゴムや繊維、新素材であるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)をはじめとした複合材料など、いかなる素材も対象とすることが可能です。 さらに、高温や低温、高速引張試験など特殊な条件下での試験には、ハイスピードカメラやサーモグラフィカメラを併用することで十分な測定結果を得ることができます。

輸送機械・電気製品分野

自動車や航空機の車両や、機構部品・電子部品・機械設備など様々なコンポーネントの、強度・振動特性・耐久性・熱的特性・衝撃特性・信頼性の評価などを目的としたさまざまな試験において利用されています。

全領域のひずみや変位の分布が得られることで、製品設計時に実施されたCAEの結果の妥当性の確認を実施するうえで、非常に有用な計測結果が得られます。近年では特に輸送機器の電動化や通信の高速化に伴い、電子部品やバッテリー関連部品の評価のための試験計測における、デジタル画像相関法(DIC)の活用のニーズが高まっています。

土木建築分野

コンクリートや鋼材、あるいは木材などの構造物を支える素材や構造の強度評価のための計測にデジタル画像相関法(DIC)が利用されています。コンクリートの載荷試験におけるクラック幅の計測や、橋梁・地震動などにおける振動評価、構造体に用いられる素材の材料特性の評価など幅広い用途があります。

生体工学・医工学・スポーツ工学分野

生体材料や繊維製品、あるいは人体そのものの組織や関節などの変形挙動の測定に活用されています。測定結果は、医療行為における患者の負担を軽減する医療機器、インプラント、義肢、人工関節などの開発に利用されています。また、スポーツウェア、スポーツシューズ、水着、アパレルなどの開発では、デジタル画像相関法(DIC)による計測結果を用いて、より人体にフィットし、着心地が良く、パフォーマンスの向上に貢献する製品を設計しています。

デジタル画像相関法(DIC)を試すには?(無償のDICソフトウェア)

デジタル画像相関法(DIC)のソフトウェアは、MatLabベースのAL-DICやNcorr、あるいはYADICSといった研究用のオープンソースとしてコードが公開されているものがいくつか存在します。Pythonなどのプログラミング、あるいは数学や物理学に関連した知識と技術力がある方ならば、比較的低コストでこの技術を体験することができます。

一方、商用のソフトウェアの多くは、最初からユーザーフレンドリーなインターフェースと十分な機能を備えており、最適化されたハードウェア・ソフトウェアパラメータとともに提供されているため、特別な知識やスキルがなくても、正確な計測結果をすぐに得ることが期待されます。

コストは抑えたいが、商用のソフトウェアのようになるべく簡単にデジタル画像相関法(DIC)を体験したいという方には、Carl Zeiss GOM Metrology社の無償版ソフトウェア「Correlateソフトウェア」がおすすめです。Zeiss Quality Suiteに含まれるCorrelateソフトウェアは、わかりやすいインターフェースで、簡単に2D DICによる評価を行うことができます。自身のカメラでランダムパターンが塗布された対象の変形過程や、変形前後の画像または動画を撮影し、それらのファイルをドラッグアンドドロップするだけで2D DICを無償で体験することができます。さらに、無償のCorrelateを体験したのちに、より高精度な計測、三次元の変形挙動、高難度な試験の計測にもご興味がある方は、有償版Correlate ProとステレオDICのARAMISが有効かもしれません。

本稿ではデジタル画像相関法(DIC)について解説してきました。非接触全視野計測、高精度、多目的性など多くのメリットがあり、すでに幅広い分野で利用されています。自身で始めるには一定の知識や技術が必要とされますが、Correlateソフトウェアなら無償で簡単にデジタル画像相関法(DIC)を体験することができます。ご興味がある方はぜひソフトウェアをダウンロードの上デジタル画像相関法(DIC)を体験してください。

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