イベントを通して感じた、各会社のAIエージェントの位置づけ
ここ数年、生成AIの話題はビジネスシーンで尽きることがありませんが、今回のイベントで感じられたことは、
「対話型AI」から「自律型AIエージェント」への本格的な転換 です。
これまでのAI活用は、人がプロンプトを入力して文章を出力させる「チャットボット」としての役割が主流でした。しかし現在、そのトレンドは単なる指示待ちのアシスタントから、指示されたゴールに向けて自律的に思考し、各種システムやツールと連携しながら複雑なタスクを完遂する
「自律型AIエージェント」へと急速に進化を遂げています。

各領域の先進企業は、すでにこの自律型AIエージェントを業務プロセスの中核に据え始めており、基調講演で紹介された事例からもその力強い動きを見て取ることができます。
例えば、Sky株式会社では Gemini Enterprise を全社的に導入し、わずか5か月という短期間で20,000個もの独自エージェントを作成・運用しているとの紹介がありました。これにより、従来は個人のパソコンに閉じ込められていたローカルデータや暗黙知が可視化され、組織全体での円滑なナレッジ共有と業務効率化に大きく貢献しているそうです。
また、損害保険ジャパン株式会社では、現場の従業員自らが業務特化型のエージェントを作り出す「市民開発」が進んでいるとの紹介がありました。目標設定を支援する「モクさぽ」、写真や画面キャプチャから文字起こしを行う「モジおこ」、レッカー費用の妥当性をロジカルに検証する「レカみる」といった多種多様なエージェントが、現場の日常業務を支えているそうです。
このように、先行して成果を上げている企業においては、AIエージェントを単なる作業効率化のツールではなく、
「組織全体の生産性と競争力を引き上げる戦略的パートナー」として明確に位置づけています。
AIエージェント活用における「3つの壁」
しかしながら、こうした華々しい成功事例の裏側で、日本市場全体を見渡すと依然として多くの企業が足踏みを続けているのが現実です。イベント内で共有されたデータによると、グローバルの Google Cloud 顧客のうち約75%がすでにAIエージェントをビジネス推進に活用しているのに対し、日本国内の調査ではAIエージェントを未活用の企業が約70%に上るという対比的な実態が明かされました。
日本企業のAI活用に対する関心やツール導入自体は、他国と比較しても決して遅れているわけではありません。しかし、「導入したものの、期待していたような財務的リターンや成果が得られない」「PoCの段階では順調に進んでも、全社展開や本番運用の前にプロジェクトが中止になってしまう」といったケースが後を絶ちません。

なぜツールを導入しても組織的な成果に結びつかないのか。その根本的な原因は、日本企業の組織構造や文化に根深く存在する「3つの壁」にあると、イベント全体を通して考えました。
第一の壁が「AI活用の解像度」です。これは、「AIで何ができるのかを十分に理解できず、自身の担当業務でどのように活用できるかを具体的に想像しにくい」という本質的な理解不足を指します。結果として、AI活用のイメージを持てる ごく一部の層しか使いこなせないという状況に陥ります。
第二の壁が「業務統合」です。多くの企業では、部署ごとに異なるシステムをまたいだ一連の業務プロセスに、AIをスムーズに組み込むことが困難です。さらに、既存の業務フロー自体が、人間が手作業で行うことを前提として設計されているため、AIツールを当てはめるだけでは局所的な作業の置き換えにとどまり、業務全体の改革には至りません。
第三の壁が「全体へのスケール力」です。組織間の縦割りやコミュニケーション不足により、AI推進プロジェクトが特定のIT部門などで孤立する傾向にあります 。部門を超えた巻き込みや成果の共有が進まず、一部の現場で効果が出ても、全社展開の段階でプロジェクトが頓挫してしまうのです。
これらの壁は、長年の発展の中で企業内に培われた組織構造、属人化した業務プロセス、未整備な評価制度やガバナンスルールなど、組織の根幹に起因しています。したがって、どれほど優秀なAIツールを導入したとしても、この組織的な壁を打ち破らなければ真の成果創出には至りません。
3つの壁を壊すための実践的アプローチと解決策
こうした日本企業特有の分厚い壁をいかにして崩し、成果創出へとつなげるか。

その解となるアプローチは様々ですが、今回は「初期導入支援」と「伴走支援」における取り組みをご紹介します。
まず、ツールを購入して現場に任せるのではなく、AIを「新入社員として業務に迎え入れる」というコンセプトのもと導入を進めることが効果的です。具体的には、環境構築・データ連携・エージェント(業務の型)提供・社員教育の4ステップを一気通貫で導入支援することが挙げられます。
定型作業から段階的にAIへ委任できる環境をあらかじめ整えることで、現場の拒絶反応を抑え、早期の成果創出へつながります。
また、導入後の定着には継続的な知見共有と現場伴走が不可欠です。その解決策の一つが、導入企業が参加するコミュニティの形成 です。エージェントの定期提供やヘルプデスク、ワークショップを通じて活用ノウハウを共有することができます。さらに、専門技術者が現場課題に直接介入する「FDE(Forward Deployed Engineer)」や業務コンサルティングを組み合わせることで、既存フローをAI前提で再設計します。
成果を可視化して経営層とも共有することで部門を超えた合意形成を促し、PoC止まりを防いで全社的な成果創出につなげます。
新卒社員が感じる、AIエージェントのいま
今回の Google Cloud Next Tokyo 26に参加して確信したのは、
技術的な課題や不安要素は、すでに実用レベルで解決されつつある ということです。
Gemini Enterprise をはじめとする Google Cloud のプラットフォームには、高度なセキュリティ、ガバナンス、プライバシー保護の枠組みが強固に備わっており、エンタープライズ企業が安心してAIエージェントを稼働させられる環境はすでに整備されています。
つまり、現時点においてAIエージェント活用を阻んでいる最も高い壁は、
もはや最新のテクノロジーではなく、「人間の意識」であり「組織の風土」そのものです。
AIエージェントを活用して、従来の仕事のやり方や組織構造そのものを柔軟に再構築できる企業と、過去の成功体験や手作業のプロセスに執着してしまう企業との間には、今後さらに決定的な生産性の格差が広がっていきます。現在、日本企業が導入と成果創出の間で停滞している状況は、まさにこの意識変革の過渡期を表していると言えます。

これからの時代を生き抜くために私たちに求められていることは、一人ひとりが「AIエージェントと協働すること」を前提として業務フローを構築する、「エージェントネイティブ」な発想へと意識を転換することではないでしょうか。
技術的な準備が整った今、次に変わるべきは私たち人間の方なのです。
私自身学生時代から、レポートやプレゼン資料の作成において生成 AI を積極的に使っていました。情報収集や構成案、文章のたたき台を出してもらい、それを自分の言葉に直して仕上げるのが主な使い方でした。私生活でも旅行の計画や資格勉強のスケジュールづくりなどで「まずは AI に相談する」ことが増えていますが、いずれも目の前のタスクを手伝ってもらう範囲にとどまっており、プロセス全体を一緒に設計し自律的に支援する存在としての AI エージェントとは、まだ向き合い始めた段階だと感じています。
今回のイベント参加を通じて、まずは日々の業務を細かく見直し、
「どの作業をAIエージェントに任せられるか」を具体的に考え、実践していきたいと感じました。
まずは、情報収集や資料作成、会議内容の整理といった定型業務からAI活用を試し、その結果や気づきをチーム内で共有していきます。単にAIを使うことを目的にするのではなく、業務の進め方そのものを改善する視点を持ち、小さな成功体験を積み重ねることで、「エージェントネイティブ」な働き方を体現していきたいと考えています。
Google Cloud Next Tokyo 26
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