2024年に公布された改正物流効率化法により、2025年4月から、すべての荷主・物流事業者に対して荷待ち時間や荷役等時間の短縮に向けた努力義務が課された。さらに2026年4月からは、一定規模以上の「特定事業者」に、中長期計画の作成・提出や毎年度の定期報告が義務付けられている。
こうした法対応が進むなか、現場における壁となっているのが「自社の現状を正確に把握できていない」という問題だという。荷待ち時間や荷役等時間が実際にどの程度発生しているのか。どこに改善すべき課題があるのか。現状が見えなければ、具体的な改善策を検討することも難しい。
そこで本稿では、丸紅I-DIGIOグループで車番検知AIソリューション「TRASCOPE-AI」の企画・営業を担当する澤田 勝美(アドバンストインテグレーションセグメント エンタープライズ事業本部 ストラテジックサービス事業部 ビジネスIT推進課)に、物流現場が抱える課題と、データを起点とした改善をどのように始めればよいのか、話を聞いた。
物流現場における荷待ち・入退場管理の課題
――担当されている業務内容と、車番検知AIソリューション「TRASCOPE-AI」に携わることになった経緯を教えてください。
澤田 現在は、TRASCOPE-AIを中心とした映像AIやIoTを活用し、現場の課題を解決する業務を担当しています。TRASCOPE-AIは、カメラに映った情報(車両のナンバープレートなど)をAIで認識し、その解析データを現場の管理や業務改善に活用するサービスです。一方、私たちが向き合う現場の課題には、映像だけでは把握できないものもあります。そうした場合にはセンサーなどのIoT技術も組み合わせながら、AIとIoTの両面から解決策を提案しています。前職でも、センサーや無線ハードウェアのODM開発に関するコンサルティングに携わっていたのですが、より直接的にお客様の課題解決に関わる仕事がしたいと考えるようになり、ちょうどそのタイミングで声をかけていただいたことがきっかけで、現在の仕事に携わることになりました。
――物流効率化法は段階的に施行され、2025年4月にはすべての荷主・物流事業者へ努力義務が、2026年4月からは特定事業者に中長期計画の作成・提出と定期報告が義務付けられました。この制度の概要と、現場で「法令に適合した運用が難しい」と言われる背景を教えてください。
澤田 物流効率化法の大きなポイントの一つが、荷待ち時間や荷役等時間の短縮です。具体的には、荷待ち時間と荷役等時間を合わせて原則2時間以内に抑えることが目標とされています。そして、一定規模以上の事業者には、まず現状を把握したうえで時間短縮に向けた施策を検討・実施し、その取り組み状況を継続的に報告していくことも求められます。
難しいのは、2時間以内に抑えるための現状把握と、レポートには当然KPIが必要になる、という部分です。現状の数値を把握するには、車両が入る時間と出る時間をチェックし、一台ずつ滞在時間を算出しなければなりません。しかし、拠点によっては1日1,000台規模の車両が出入りするため、それをすべて人手で処理するのは現実的ではありませんし、記録したデータをどこまで客観的なエビデンスとして扱えるのかという問題もあります。かといって全拠点にセンサーを張り巡らせようとすると大きな費用がかかりますから、簡単には踏み切れません。そのため、自動化や正確なデータ取得に力を入れようとしても、対応が難しい企業も少なくないのが実情だと思います。

――物流効率化法への対応が難しい企業様には、具体的にどのようなボトルネックがあるのでしょうか。
澤田 一つは、正確なデータを取得・集計するための負担です。今あるリソースだけで対応しようとすると、入退場時刻の記録や滞在時間の計算など、膨大な作業に人員を割かなければなりません。既存のバース予約システムのデータを活用しようとする企業もありますが、本来のバース予約システムは、来場する車両を予約に応じて適切なバースへ案内するためのものです。システムによっては、荷役終了後に退場登録をしなくても車両が退出できるため、「入場時刻は記録されているのに、退場時刻が残っていない」といったケースが発生します。
また、システム上の記録だけでは、作業者が荷役以外の行動を取っていた時間まで正確に把握することは困難です。そのため、実際の荷待ち時間や荷役等時間と、記録上の時間にずれが生じる可能性があります。手作業による集計にも、記入漏れや転記ミスといったヒューマンエラーはつきものです。つまり、データを集めるために多くの人手がかかる一方で、集めたデータの正確性を担保しにくい。この点が、多くの物流現場に共通するボトルネックになっていると感じています。
物流効率化法への対応に向けたアプローチ
――こうした課題を解決し、法令に適合した運用を実現するために、まず何から着手すべきでしょうか。
澤田 最初に考えるべきなのが「どうやって正確なデータを取るか」です。人を配置して入退場時刻を手作業で記録・集計するのか、それとも費用や工事の負担を抑えながら、カメラで車番を自動的に読み取るのか。ここが一つのポイントになります。手作業の場合はどうしても記録の粒度や正確性にばらつきが出やすく、集計にも手間がかかります。その点、車番検知であれば、予約情報と実際に来場した車両が異なる場合でも、カメラで実車両のナンバープレートを直接読み取れるので、予約情報だけに依存せず、実際に出入りする車両をもとにデータ化できるのが大きな強みです。
なお、取得した車番データそのものを報告することは法令で義務付けられているわけではありません。あくまで、荷待ち時間や荷役等時間を把握・集計するための手段です。正確な時間データを効率よく取得し、現状把握や改善、その後の報告につなげるための基盤として活用する、という位置づけになります。
TRASCOPE-AIを活用した物流改善
――出入口に設置したカメラで車番・入退場時刻・検知場所・静止画を自動取得する仕組みについて、わかりやすく教えてください。
澤田 イメージとしては、大型のショッピングモールなどで、駐車場の入口と出口に設置されているナンバープレート読み取り用のカメラに近いです。駐車券を取らなくても、入庫した車両のナンバーをカメラが読み取り、「どの車が何時に入って、何時に出たのか」を記録できる駐車場がありますよね。それと同じように、物流拠点の入口と出口にカメラを設置し、車両のナンバーや入退場時刻などを自動で取得します。車両のナンバープレートがカメラの画角に入ると、AIエンジンが5〜10枚ほどの画像を連続で撮影し、それぞれの画像から車番を読み取ります。例えば、ある1枚では「1」を「7」と読み間違えても、残りの画像で「1」と正しく認識できていれば、多数決によって「1」を採用する仕組みです。このように、1枚の画像だけで判定するのではなく、複数の画像を照合して最終的な車番を判断することで、検知精度を高めています。
――取得したデータから、定期報告で求められる荷待ち時間・荷役時間はどのように算出するのでしょうか。
澤田 基本的には、倉庫への入場時刻と退場時刻の差分から、車両が拠点内に滞在していた時間を算出します。厳密には、この滞在時間と荷待ち時間・荷役等時間が完全に一致するわけではありませんが、車両ごとの滞在時間を自動で取得・蓄積できることが大きなポイントです。取得したデータはExcelやCSV形式で出力できるため、お客様の運用に合わせて集計や分析に活用できます。保存されるのは、基本的に車番、入退場のタイムスタンプ、どのカメラで検知したかを示すカメラIDなどのテキスト情報です。静止画の保存はオプションですが、必要な場面だけを抽出して残すこともできます。常時動画を保存する方法と比べると、必要な情報に絞って保存できるため、通信量やクラウド保存容量を大幅に抑制できる点も大きなメリットです。
――「カメラ導入は難しそう」と感じる読者も多いと思います。導入検討時の現地調査や、スモールスタートの流れを教えてください。
澤田 導入にあたって、お客様側で特別な準備をしていただくことはほとんどありません。まずは施設の図面を共有いただき、物流効率化法への対応という観点も踏まえながら、当社でカメラの設置候補地を絞り込みます。そのうえで現地へ伺い、車番を安定して読み取れる角度や高さなどを確認していく流れです。現地調査で特に注意しているのが、天候や日差しなど周辺環境の影響です。なかでも西日は車番検知の大きな障害になります。強い逆光によってナンバープレートが白飛びすると検知精度が低下するため、時間帯による日差しの変化も考慮して設置場所を選定します。設置時には実際の映像を見ながら、車番を問題なく読み取れているかリアルタイムで確認するため、お客様自身で細かな調整をしていただく必要はありません。また、設置に必要なのは基本的に電源とLTE回線だけで、大がかりなネットワーク工事も不要です。LTEの電波が届きにくい場所でも、カメラ本体とAI処理部を分け、AI処理部を電波の届く場所に設置することで対応できます。
そのため、最初から大規模な設備投資をするのではなく、まずは必要な場所から導入して効果を確かめるといったスモールスタートも可能です。「カメラの設置やネットワーク環境の整備が大変そう」と構える必要はなく、既存の施設環境を活かしながら導入しやすい仕組みになっています。

――クラウド型ならではのサポート体制について教えてください。
澤田 導入後も、カメラの状態を遠隔で確認できることがクラウド型の強みです。例えば、何かがぶつかってカメラの向きがずれたり、車番の取りこぼしが発生したりした場合でも、遠隔で状況を確認しながら適切な状態へ調整できます。また、落雷による電源断など、現場では予期せぬトラブルが起こることもあります。そうした異常もアラートで検知できるため、お客様からご連絡をいただいて初めて問題に気づくのではなく、私たちの側から状況を把握し、原因を確認したうえでサポートに入ることができます。
設置して終わりではなく、導入後も安定してデータを取得できる環境を継続的に支援できる点は、クラウド型ならではのメリットだと考えています。
――他の車番検知カメラとの違い、優位性はどこにあるのでしょうか。
澤田 TRASCOPE-AIの大きな強みの一つは、現場に合わせて柔軟にカスタマイズできる点です。例えば、先ほどお話ししたようにカメラ本体とAI処理部を分離できるため、LTEの電波が届きにくい場所でも、AI処理部まで配線を延ばすことで対応できます。取得したデータもExcelやCSVなど、お客様の運用に合わせた形式で出力できますし、静止画の保存もオプションなので、必要な情報だけを無駄なく取得できます。
また、「車番」を起点にデータを取得できること自体も強みです。自社便や協力会社便はもちろん、事前に車両情報を登録していないスポット便であっても、実際に来場した車両のナンバープレートを直接読み取れます。そのため、予約情報などに依存せず、幅広い来場車両を対象にデータを蓄積できます。
TRASCOPE-AIは単に「通過した車両のナンバーを読み取る」だけの仕組みではありません。生成AI・LLMや各種センサーデータとの連携、LTE通信などを組み合わせ、お客様ごとの現場課題に応じて仕組みを構築できます。車番検知をゴールにするのではなく、取得したデータを現場の課題解決にどう活かすかまで考えられることが、TRASCOPE-AIの大きな差別化ポイントだと考えています。
車番データを起点に、拠点全体の最適化へ広がるデータ活用
――今後は法令対応にとどまらず、入退場管理から拠点全体の最適化へと活用が広がると考えられています。具体的な活用イメージを教えてください。
澤田 物流効率化法への対応という点では、まず車番を取得し、入退場のデータを提供することが私たちの役割です。ただ、今後はTRASCOPE-AIで取得できるデータだけで完結させるのではなく、お客様がすでに保有しているデータや、センサー、天候などのさまざまなデータと組み合わせて活用していくことが重要になると考えています。
そのため、私たちが特に力を入れているのが、さまざまなデータを取り込み、二次分析につなげられるプラットフォームづくりです。すでに生成AI・LLMとの連携機能もリリースしており、一つの基盤に蓄積した複数のデータを横断的に分析し、改善のヒントを引き出せるようになっています。
例えば物流現場であれば、車番や入退場時刻だけでなく、荷役に関するデータやセンサーデータ、天候データ、さらにお客様が保有する業務データなどを組み合わせるイメージです。そうすることで、「荷役などを含む滞在時間を2時間半から1時間半に短縮するには、どこを改善すべきか」といった問いに対しても、複数のデータを踏まえて施策の選択肢を導き出せるようになります。
現在、複数の業種業界のお客様にLLM連携機能の検証を実施していますが、今後商業施設・工場や物流業界などにおいても、データの二次分析による利活用のニーズが大幅に増えることが予想されます。一つのデータだけを見るのではなく、さまざまなデータを掛け合わせることで、見えてくるものは大きく変わります。だからこそ、車番検知だけでなく、お客様が持つデータも含め、あらゆるデータを集約・連携できる基盤をつくり、そこから多角的な分析や業務改善につなげていくことが大切だと考えています。
――丸紅I-DIGIOグループとして、お客様に伴走支援していく上で、大切にされていることを教えてください。
澤田 私たちの強みは、現場ごとの環境に合わせたご提案ができることです。決められたパターンの商品を売るのではなく、お客様ごと、現場ごとの環境に合わせて様々な調整が可能です。こうした柔軟性が求められる背景には、プラットフォームの二極化があると感じています。
ひとつは大手SIerが構築する高機能・高額型で、多くの機能を備えられる反面、将来的に機能を追加・変更しようとすると、相応のコストがかかるケースもあります。もうひとつは、特定の業界や用途に特化したスタートアップのサービスがありますが、比較的導入しやすい反面、個別の追加開発が難しかったり、長期的なサポート体制に不安があったりするケースもあります。私たちが目指しているのは、その中間にある存在です。まずは必要なところからスモールスタートし、現場や事業の変化に合わせて必要な機能を追加していく。初期の導入ハードルを抑えながら、5年後、10年後の拡張にも柔軟に対応できるプラットフォームを提供し、長期的にお客様の課題解決に伴走していきたいと考えています。
――最後に、荷待ち・荷役時間の可視化やデータドリブンな物流改善に取り組もうとしている読者へメッセージをお願いします。
澤田 物流効率化法への対応をはじめ、物流現場の改善を進めるうえで、まず大切なのはデータを取得・可視化し、自分たちの現状を客観的に把握することです。現状が見えて初めて、どこに課題があるのか、どのような施策が必要なのかを具体的に検討できるようになります。その次に考えるべきなのが、取得したデータに何を掛け合わせ、どのように改善へつなげていくかです。そのため、システムを選ぶ際には、今必要な機能だけでなく、将来的なデータ連携や機能拡張まで見据えておくことが重要だと思います。
目の前の法令対応には十分でも、3年後、5年後に新しい課題が出てきたときに対応できなければ、システムそのものを選び直さなければならないかもしれません。だからこそ、現状を正確に捉えられることはもちろん、将来の変化にも柔軟に対応し、改善のプランニングまで寄り添えるプラットフォームを選んでいただきたいですね。

――物流効率化法への対応は、単なる規制対応にとどまらない。受付簿の数字を集計するだけでは見えてこなかった現場の実態が、データとして浮かび上がったとき、初めて改善の議論が動き出す。
何から手をつければいいか分からないと感じている拠点ほど、まずは「今、自分たちの拠点で何が起きているのか」を客観的な数字で捉えることから始めることが有効だろう。
TRASCOPE-AI お役立ち資料
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