製造業を取り巻く環境は今、競合環境の激化による製品開発期間の短縮圧力、深刻な人手不足、熟練技術の伝承、さらには複雑化するグローバルサプライチェーンへの対応など、劇的な変化の中にある。
多種多様な製品やソリューションを通じて製造現場が抱える課題の解決を支援してきた丸紅I-DIGIOグループだが、その製品・ソリューションのバリエーションをもってしても、昨今の製造現場において高度化・複雑化する課題に対しては、新たなアプローチが必要になっている。
こうした変化に応えるべく、丸紅I-DIGIOグループの製造ソリューションセグメントが新たに設置したのが「デジタルエンジニアリング事業開発室(以下、DE室)」である。DE室は、プロダクト起点だけではなく「顧客の課題起点・ニーズ起点」で、最新のAIやロボティクス、デジタルツインといった先端技術を統合し、エンジニアリングチェーン全体で価値提供することを目指している。
より高度化・複雑化する製造業の課題をワンストップで解決するDE室
――なぜ今、丸紅I-DIGIOグループの製造ソリューションセグメントに「DE室」を新設したのでしょうか。その背景と組織の役割を教えてください。
藤井 2025年4月、丸紅I-DIGIOでは、長年3Dスキャナや3Dプリンター、CAD/CAMといった先進的な海外製品を提供してきた実績を基盤に、新たな組織「DE室」を立ち上げました。この新設の背景には、製造業が直面する課題の質的な変化があります。
最近、製造業を取り巻く環境は刻々と変化しており、製造事業者が抱える課題も高度化・複雑化してきています。これまでは、当社が取り扱っている製品などを起点に、どのような価値を提供できるかご提案することで、お客様が抱える課題を解決してきました。しかし、昨今の環境下では、そうした製品起点の提案だけでは不十分だというケースが増えてきました。そのため製品起点の提案に加えて、お客様が本当に解決したい課題を起点にして、その課題解決のための最適な技術やソリューションを組み合わせてご提案していくことが必要になってきています。
DE室は、これまで培ってきた数多くの製造業のお客様との接点・知見から、顧客業務プロセスとソリューションの双方を理解し、課題解決に必要な生産技術DX・フロントローディングを推進支援する事業領域を狙い、情報構造化、AI、デジタルツイン、クラウド、ロボティクスといった幅広い先端技術を取り入れ、製造現場が真に必要とするソリューションをワンストップで提供する体制を整えています。

製造業のエンジニアリングチェーンに存在するあらゆる課題に対応
――具体的に、エンジニアリングチェーンのどのような工程で、どのような課題に対応しているのでしょうか。
濵中 DE室の支援領域は、特定の工程に限定されません。設計開発から生産技術、製造、品質管理、さらには保守・保全に至るまで、「エンジニアリングチェーン」と呼ばれる『ものを作っていく工程』全体をターゲットとしています。その各工程において多くの課題が存在しています。たとえば、設計ナレッジの属人化、生産条件の最適化、設備の異常予兆検知、外観検査の自動化、あるいは品質データの活用などです。これらの課題は、部門ごとに分断されていることが多く、全体最適化が進まない原因にもなっています。
DE室は、こうした部門横断的な課題を俯瞰し、適切なテクノロジーをパズルのように組み合わせることで、解決への道筋を示します。単なる製品の導入ではなく、お客様の業務プロセスそのものに深く踏み込み、現場のエンジニアが真に『使える』ソリューションを形にしていくことが、DE室のミッションだと考えています。

国内外の展示会などを通じて世界最先端のソリューションを発掘
――世界中の膨大なテクノロジーの中から、どのようにして最適なソリューションを見つけ出しているのですか。
DE室では、国内外で行われているさまざまな展示会などから情報収集していますが、こうした展示会を単なる技術調査としてだけではなく、日本の製造業のお客様の課題解決につながるかを見極める場として捉えています。具体的には、その技術がどの工程の課題に有効なのか、現場への展開まで見据えられるか、既存設備やデータ基盤と連携できるか、そして何より日本の製造業の人手不足や技術伝承といった特有の課題に合うか、といった観点で見極めています。
集められた情報は、単なるカタログスペックの比較ではありません。日本市場での展開意欲があるベンダーか、丸紅I-DIGIOとして導入支援が可能かといった、実効性の高いアライアンスを前提とした情報として集約されます。これにより、展示会に出展されている膨大な技術の中から、日本の製造現場にとって、真に価値のあるソリューションを厳選して届けていきたいと思っています。

ハノーバーメッセで見えてきた、製造業におけるAI活用の課題と対策
――最近、ハノーバーメッセを視察されたと伺いました。ハノーバーメッセの視察を経て見えてきた、製造業におけるAI活用の最新トレンドと、日本企業が直面している壁について教えてください。
藤井 最新のハノーバーメッセを通じて見えてきたのは、製造業におけるAI活用が「検証(PoC)の時代」から「実装の時代」へと大きく舵を切ったという事実です。
AI活用のステージが、実装展開を前提とした段階に移行しつつあると強く感じました。AIそのものの性能だけでなく、現場データをどう集め、どう意味付けして、どのように業務に組み込むかという『実装のプロセス』が重視されていました。たとえば、AIがロボットに対して最適な作業指示を行うなど、自律型工場という構想が現実的な選択肢になりつつあると強く実感しました。

濵中 しかし一方で、世界と比べ、日本の製造現場におけるAI活用には遅れを感じる場面もあります。日本の製造業は縦割りの文化が強く、情報が部署や個人に留まってしまいがちです。その情報を収集・構造化し、AIで活用できる状態にするのに、非常に手間と時間がかかるのが現状であり、ここにボトルネックの一つがあるのではないかと考えています。
DE室では、この「データ整備の壁」こそが、AI活用だけでなく、日本企業のDXの推進を阻む最大の要因であると捉え、技術の導入前段階であるデータの構造化から支援を行う方針を打ち出しています。
また、AIを導入しているものの、実務で十分に活用しきれていないケースや、活用テーマはあるものの、人材、推進体制が不足しているケースもあります。さらに、そもそも自社のどの業務にAIを適用すべきか分からない、PoCで止まってしまい本格導入に進めない、こうした悩みを抱える現場の声も、数多く聞かれました。
そのため今後は、単にAIツールを導入するだけでなく、現場課題の整理、必要なデータの見極め、業務プロセスへの組み込み、効果検証、定着支援までを一体で進めることが重要になります。DE室としても、まさにそうした部分をご支援していきたいと考えています。
「汎用のAIを導入したものの、なかなか実務で使えていない」というお客様に向けては、AI活用の第一歩として利用しやすい汎用AIプラットフォーム「まるちゃ」もご用意しており、段階的なご支援ができると考えています。
汎用AIプラットフォーム「まるちゃ」の可能性
――丸紅グループが自社開発したAIプラットフォーム「まるちゃ」は、製造現場にどのような変化をもたらすのでしょうか。
濵中 製造業のAI活用における第一歩として考えられるのが、丸紅グループが自社開発した汎用AIプラットフォーム「まるちゃ」です。
もともとは親会社である丸紅株式会社が開発したAIプラットフォームで、最大の特徴は、複数の生成AIモデルを使い分けられるという点にあります。丸紅グループ全体で活用していた際には、年間約130万時間の業務削減効果を創出したという実績もあります。
この「まるちゃ」は、製造業においては、ホワイトカラー系の業務や間接業務の効率化に大きく貢献します。特徴的なのは『カスタムエージェント』という機能です。過去の図面、技術資料、ベテランのノウハウ、トラブル事例などを「まるちゃ」に登録・参照させることで、その企業専用、あるいはその部署専用のAIエージェントを構築できるのです。これにより、必要な情報を探すためだけに費やされていた膨大な時間を劇的に削減できます。
安全なセキュリティ環境下で、ユーザー数無制限で活用できるこのツールは、AIリテラシーがまだ高くない現場であっても、日常業務の中から自然にAIに触れ、その恩恵を享受できる「入り口」として機能します。
既存製品ユーザーのAI活用によって実現する、製造現場の改善
――3Dプリンターや3Dスキャナ、CAD/CAMといった、既存製品のユーザーがAIを活用することで、具体的にどのような改善が可能になりますか。
設計開発領域では、「まるちゃ」のカスタムエージェント機能を活用し、過去の設計資料、技術標準、トラブル事例、レビュー記録などを「まるちゃ」に登録しAIに参照させることで、設計部門専用のAIを構築できます。担当者は自然言語で質問するだけで、必要な情報や類似事例に素早くアクセスできるようになります。これにより、設計検討の効率化、ベテランへの依存の軽減、技術伝承の促進が期待できます。
生産技術や製造の領域では、CAD/CAMを活用した加工準備や実際の製造工程での加工履歴、設備データ、作業実績、異常履歴などが存在し、それらのデータを連携・分析することで、段取りや条件設定の属人化の抑制、異常の兆候把握、生産性改善につなげられます。また、仕上げ、段取り替えなど、人の作業が多い工程では、作業者ごとの動きや手順の違いを可視化して、標準作業の整備や、必要なら教育での活用も期待できます。
品質管理の領域では、たとえば3Dスキャナのユーザーがこれまで目視で行っていた外観不良検査に画像データを活用したAI分析を導入することで、検査品質の安定化が期待できます。さらに、検査結果を単なる合否判定で終わらせず、工程条件や加工履歴、設備状態と関連付けて分析することで、品質改善や再発防止にもつなげやすくなります。
このほか、需要予測、生産計画の最適化、作業手順書の自動作成、熟練作業の動画解析、現場問い合わせ対応AI、品質不具合の原因分析などAIの活用領域は広がっています。
課題整理からAI活用、現場定着までを一気通貫で伴走支援
――「何から手をつければよいか分からない」と悩む企業に対して、DE室はどのようなステップで支援を行うのでしょうか。
藤井 現実に、「何から手をつければよいか分からない」というお客様は少なくありません。そうしたお客様に対して、DE室では、まずは、現場の「困りごと」を丁寧に紐解くことからスタートします。

――丸紅I-DIGIOグループ製造ソリューションセグメントのDE室は、最先端のテクノロジーの単なる「紹介」にとどまることなく、日本の製造現場が長年培ってきた技術力と融合させ、持続可能な競争力を生み出すための「強力なパートナー」になることを目指しているという。
具体的な課題がある場合はもとより、まずは自分たちの課題を整理したい、という段階であっても、DE室に相談してみることが、製造現場の未来を大きく変えるきっかけになるかもしれない。
製造業AI活用 お役立ち資料
製造業AI活用の紹介資料をダウンロードいただけます。