丸紅グループのIT基盤を構築した技術力で実現する企業セキュリティ対策。 ソリューションとサービスはこちら

匿名加工情報とは?定義・作成基準・企業の義務を2026年改正まで含めて解説

「匿名加工情報とは、具体的にどのような情報を指すのか」
「個人情報との違いや、企業が取り扱う際のルールを知りたい」

顧客データなどを分析・活用するなかで、このような疑問を抱える企業担当者もいるのではないでしょうか。

匿名加工情報とは、特定の個人を識別できないように個人情報を加工し、元の個人情報を復元できないようにした情報です。一定の要件を満たせば、本人の同意なしで第三者への提供が可能になるなど、データ活用の幅を広げられる仕組みとして設けられています。

しかし、匿名加工情報を作成・利用・提供する事業者には、守るべきルールがあります。法改正の動向も踏まえ、適切な運用体制を整えることが重要です。

本稿では、匿名加工情報の定義や個人情報・仮名加工情報との違い、作成時に求められる加工基準、企業が負う義務についてわかりやすく解説します。

2026年の個人情報保護法改正をめぐる動向も紹介するので、データ活用や個人情報保護の実務に携わる方はぜひ参考にしてください。

個人情報を含むデータの活用に、こんなお悩みはありませんか?

  • 顧客データを分析・活用したいが、個人情報の取り扱いに不安がある
  • 氏名や住所のマスキング・匿名化を手作業で行っており、負担も漏れのリスクも大きい
  • 法改正も見据えて、匿名加工・マスキングを継続できる仕組みを整えたい

上記のようなお困りごとがありましたら、データマスキングソフトウェア「Insight Masking」をご検討ください。日本語に最適化されたLLMを搭載し、個人情報や機微情報を自動的に検出してマスキングします。フリーテキスト中の個人情報抽出に加え、データベースのマスキングではテーブル間の参照整合性を保ったまま加工することも可能です。

\AIで個人情報を自動検出・マスキング/

Insight Maskingの資料ダウンロードはこちら

INDEX

匿名加工情報とは?個人情報を復元できないまで加工した情報

匿名加工情報とは、個人情報を加工することで、特定の個人を識別できず、かつ元の個人情報を復元できないようにした情報です。

個人情報保護法に定められた情報類型の一つであり、法令で定める基準に従って適切に加工された匿名加工情報は、個人情報とは異なるルールのもとで取り扱うことができます。

ただし、氏名を削除したり一部の情報をマスキングしたりするだけで、すべて匿名加工情報になるわけではありません。匿名加工情報として扱うには、法律上の要件や加工基準を満たす必要があります。

匿名加工情報の法律上の定義

個人情報保護法第2条第6項では、匿名加工情報について、簡単に整理すると次の2つの要件が求められています。

  •  特定の個人を識別できないように加工されていること
  •  元の個人情報を復元できないように加工されていること

重要なのは、この2つをともに満たす必要がある点です。

たとえば、氏名を削除していても、ほかの情報との組み合わせによって特定の個人を識別できる状態であれば、匿名加工情報の要件を満たしません。

また、加工前後の情報を対応させる情報などが残され、容易に元の個人情報へ戻せる状態も適切とはいえません。

そのため、企業が独自の判断で「十分に匿名化した」と考えるだけではなく、法令上の基準に沿って加工することが必要です。

「匿名加工情報として扱う意図」がなければ匿名加工情報ではない

匿名加工情報としてデータを活用するには、最初から匿名加工情報を作成する目的で、個人情報保護法や個人情報保護委員会規則に定められた基準に従って加工する必要があります。

単に氏名を削除したり、社内システム上でデータをマスキングしたりしただけでは、匿名加工情報になるとは限りません。

たとえば、システム開発のテスト用として顧客名を「○○」に置き換えるケースがあります。これは情報漏えいなどを防ぐために行う加工ですが、匿名加工情報を作成する目的で行われたものでなければ、匿名加工情報としては扱われません。

一方、顧客データを匿名加工情報として分析や第三者提供などに活用したい場合は、匿名加工情報として作成することを明確にしたうえで、法定の加工基準に従って適切に加工・管理などの措置を講じることが求められます。

つまり、「加工した結果、誰かわからなくなったから匿名加工情報」と判断するのではなく、最初から匿名加工情報として扱うことを前提に、法律上のルールに沿って作成することが必要なのです。

匿名加工情報と仮名加工情報・統計情報の違い

匿名加工情報と混同されやすいものに、「仮名加工情報」「統計情報」「個人関連情報」などがあります。いずれもデータ活用に関係する情報ですが、個人を識別できる可能性や第三者提供のルールなどが異なります。

それぞれの違いを以下で理解しておきましょう。

情報類型 元の個人を識別できる状態に戻せるか 個人情報に該当するか 第三者提供 データの形
個人情報 - 該当する 原則として本人同意が必要 個人単位のデータ
仮名加工情報 他の情報と照合すれば識別できる場合がある 他の情報と容易に照合して識別できる場合は個人情報に該当 原則禁止 個人単位のデータ
匿名加工情報 復元できない 個人情報に該当しない 法定のルールを守れば可能 個人単位のデータ
統計情報 個人を識別できない 個人情報に該当しない 個人情報保護法上の第三者提供規制の対象外 集計データ
個人関連情報 情報によって異なる 単体では個人情報に該当しない情報 提供先で個人データとして取得されることが想定される場合などは確認等が必要 Cookie等の個人に関連する情報

なかでも押さえておきたいのが、仮名加工情報・匿名加工情報・統計情報の違いです。

仮名加工情報は、氏名などを削除・置換することで、ほかの情報と照合しない限り特定の個人を識別できないようにした情報です。社内でのデータ分析などに用いられる仕組みですが、原則として第三者への提供は認められていません。

一方、匿名加工情報は、特定の個人を識別できず、元の個人情報を復元できないよう加工した情報です。法令上のルールを守ることで、本人の同意を得ずに第三者へ提供できる点が仮名加工情報との大きな違いです。

また、統計情報は「30代の購入者が40%」のように、複数人の情報を集計・分析し、特定の個人との対応関係が排斥されている情報を指します。個人単位のデータを残す匿名加工情報とは、データの粒度そのものが異なる点を理解しておきましょう。

どの情報類型を選ぶべき?利用目的から判断する

匿名加工情報・仮名加工情報・統計情報のどれを選ぶべきかは、データをどのように利用したいかによって変わります。

実務では、主に次の3つの観点から整理すると判断しやすくなります。

  • 社外にデータを提供するか
    第三者への提供を想定する場合は、匿名加工情報が選択肢になります。一方、自社内部での分析にとどめるのであれば、仮名加工情報を活用できる場合があります。
  • 個人単位のデータが必要か
    1人・1件ごとのデータを使って分析したい場合は、匿名加工情報や仮名加工情報が候補です。「年代別の平均購入額」などの集計値だけで目的を達成できるのであれば、統計情報として扱う方法もあります。
  • 元の個人と結び付ける必要があるか
    元の個人を識別できない状態で社内分析などに活用しつつ、匿名加工情報ほど復元不能な加工を必要としない場合は、仮名加工情報が選択肢になります。

ここで重要なのは、情報類型を先に決めるのではなく、利用目的を先に明確にすることです。

たとえば、「第三者に提供するから匿名加工情報にしよう」と必要以上に情報を削除・加工すると、分析に必要なデータまで失われ、当初の目的を達成できなくなる可能性があります。

まず「誰が、何のために、どの範囲までデータを利用するのか」を整理し、その目的を達成するために必要な情報の粒度や利用範囲を確認したうえで、適切な情報類型を選択しましょう。

匿名加工情報の作成基準と加工手法

ここからは、「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」をもとに、匿名加工情報の作成基準と加工手法を解説します。

匿名加工情報の作成で求められる5つの措置

匿名加工情報の作成基準は、大きく5つに整理できます。

区分 求められる措置 加工の例
1 特定の個人を識別できる記述等の削除 氏名を削除する、住所の詳細部分を削除・一般化する
2 個人識別符号の削除 マイナンバー、顔認識データ、指紋認識データなどを削除する
3 情報を相互に連結する符号の削除 複数のデータベースを結び付けるIDなどを削除・置換する
4 特異な記述等の削除 極端に高い年齢や突出した購買額など、本人の特定につながり得る情報を削除・一般化する
5 データベース全体の性質を踏まえた措置 属性の組み合わせなどから個人を識別できないよう追加で加工する

これらは「5つのうち、いずれかを実施すればよい」というものではありません。加工対象となる個人情報の性質に応じて、該当する基準に沿った措置をすべて講じる必要があります。

データ全体から個人を識別できないようにすることも重要

5つの基準のなかでも、実務上判断が難しいのが、5号の「データベース全体の性質を踏まえた措置」です。

氏名や電話番号などは、削除すべき項目を比較的判断しやすいでしょう。しかし、直接的な識別情報を削除しただけでは、ほかの属性との組み合わせによって個人が絞り込まれる場合があります。

たとえば、氏名を削除し、住所を市区町村までにしたデータがあるとします。それでも「A市・80代・男性・特定の職業」に該当する人がデータ内に1人しかいなければ、周辺情報との組み合わせによって本人が識別される可能性があります。

こうしたリスクを評価する際に用いられる考え方の一つが「k-匿名性」です。年齢や地域など特定につながり得る属性の組み合わせについて、同じ組み合わせを持つデータが一定数以上存在する状態にすることで、個人を絞り込みにくくします。

ただし、k-匿名性を満たすこと自体が匿名加工情報の法定要件として一律に求められているわけではありません。あくまで、データセット全体から個人が識別されるリスクを検討する際に活用できる手法の一つです。

匿名加工情報の作成は、「氏名を消した」「IDを置き換えた」といった項目単位の処理だけでは完結しません。データセット全体を確認し、個人の識別につながる情報が残っていないかを評価する必要があります。

匿名加工情報で用いられる主な加工手法

匿名加工情報を作成する際は、データの性質に合わせて複数の加工手法を組み合わせます。代表的な方法は以下のとおりです。

加工手法 処理の概要 主な対象
削除・置換 識別につながる情報を削除したり、別の値に置き換えたりする 氏名、電話番号、IDなど
一般化(丸め) 詳細な情報をより大きな区分に置き換える 年齢、住所、日付、所得など
トップ/ボトムコーディング 上限・下限を設け、極端な値を一定の区分にまとめる 所得、年齢、利用回数など
撹乱 データの統計的な特徴を大きく損なわない範囲で値を変化させる 数値データ、位置情報など

たとえば、年齢を「43歳」から「40代」、住所を「○丁目○番地」から「○○市」とする一般化を行えば、分析に必要な情報を一定程度残しながら、個人の識別リスクを下げられます。

ただし、匿名性を高めるほどデータの分析価値が低下しやすい点には注意が必要です。必要以上に加工すると、匿名加工情報を作成できても、本来予定していた分析に使えなくなる可能性があります。

そのため、「どの分析に使うのか」「どの項目・粒度まで必要なのか」を先に整理し、その目的を達成できる範囲で適切な加工方法を設計することが重要です。

匿名加工情報を作成する5つのステップ

匿名加工情報の作成は、加工処理だけを行えば完了するものではありません。

実務では、次の5つのステップで進めると整理しやすいでしょう。

  1. 利用目的と加工対象を明確にする
  2. 必要な加工方法・基準を決める
  3. データを加工する
  4. 加工後のデータを検証する
  5. 必要な安全管理措置・公表等を行う

それぞれのステップについて、詳しく解説します。

ステップ1・2|利用目的と対象データを整理し、加工方法を決める

まず、「匿名加工情報を何に利用するのか」を明確にしたうえで、対象となるデータを棚卸しします。

氏名・住所・電話番号などの直接的な識別情報のほか、年齢・職業・購買履歴など、ほかの情報と組み合わせることで個人の識別につながる項目も確認しましょう。

そのうえで、分析に必要な項目や粒度を整理し、削除・一般化・置換など、各データに適用する加工方法を決定します。

先に利用目的を決めるのは、加工しすぎによるデータ価値の低下を防ぐためでもあります。「匿名性を高めること」だけを優先するのではなく、利用目的を達成できる有用性と、個人を識別・復元できない匿名性を両立させることがポイントです。

ステップ3|決めたルールに沿ってデータを加工する

加工方法を決めたら、実際のデータに適用します。この工程では、データ量が多くなるほど作業負担が大きくなります。

特に企業のデータ基盤では、次のような課題が起こりやすいため注意が必要です。

  • 加工対象となる項目を洗い出しきれない
    数百のテーブルや数千のカラムを保有している場合、どこに個人情報が含まれているかを人手ですべて確認するのは容易ではありません。加工前にデータの所在や種類を把握できる仕組みが必要です。
  • フリーテキスト内の個人情報を見落とす
    氏名や住所などの専用カラムだけを確認していると、備考欄や問い合わせ履歴、コールセンターの対応メモなどに入力された個人情報を見落とす可能性があります。
  • データ同士の関係性が失われる
    複数のテーブルで利用しているIDを個別に置き換えると、加工後にデータ同士を関連付けられなくなる場合があります。分析に必要な関係性を維持しながら、識別につながる符号を適切に処理する設計が必要です。

また、データが継続的に追加される場合は、新たなデータにも同じ加工ルールを適用しなければなりません。

定期的に大量のデータを扱う企業では、加工処理をツールやデータパイプラインに組み込み、同じルールで継続的・再現可能な処理を行える体制を整えることも有効です。

ステップ4・5|加工結果を検証し、必要な公表等を行う

加工が完了したら、匿名加工情報として適切な状態になっているかを確認します。

氏名などの直接的な識別情報が残っていないか、属性の組み合わせや特異な値などから特定の個人を識別できないかチェックしましょう。

必要に応じて加工方法を見直し、匿名性とデータの有用性のバランスを調整します。

また、匿名加工情報を作成した事業者には、加工方法等情報の安全管理措置や、作成した匿名加工情報に含まれる個人に関する情報の項目の公表など、加工後にも守るべき義務があります。

匿名加工情報は「加工したら終わり」ではありません。作成から保管、利用、第三者提供までを一連の運用として捉え、社内で適切に管理できる体制を整えることが重要です。

加工後の公表義務については「作成する側|作成時・第三者提供時の公表義務」でも詳しく解説します。

匿名加工情報を取り扱う企業の義務(法43条〜46条)

匿名加工情報は、個人を識別・復元できないよう加工されているため、個人情報そのものには該当しません。

しかし、企業が自由に作成・利用・提供できるわけではなく、個人情報保護法では、匿名加工情報を作成する事業者と、提供を受けて取り扱う事業者の双方にルールを定めています。

立場 主な義務 主な根拠条文
作成する側 法定の基準に従った適切な加工 43条1項
作成する側 加工方法等情報の安全管理措置 43条2項
作成する側 作成した匿名加工情報に含まれる項目の公表 43条3項
作成する側 第三者提供時の公表・匿名加工情報である旨の明示 43条4項
作成する側 本人を識別する行為の禁止 43条5項
受け取る側 第三者提供時の公表・明示 44条
受け取る側 本人を識別する目的での加工方法等情報の取得・照合の禁止 45条
双方 安全管理措置や苦情処理などに関する自主的な取り組み(努力義務) 43条6項・46条

以下では、特に重要な義務について詳しく解説します。

作成する側|作成時・第三者提供時の公表義務

匿名加工情報を作成する企業には、作成したときと第三者へ提供するときの2つの場面で、公表などの対応が求められます。

①作成したとき(43条3項)

匿名加工情報を作成した場合は、匿名加工情報に含まれる「個人に関する情報の項目」を遅滞なく公表します。

公表するのはデータの内容そのものではなく、「性別」「年代」「居住地域」「購買履歴」といった項目名です。自社Webサイトへの掲載など、一般の人が確認できる方法で公表します。

②第三者に提供するとき(43条4項)

作成した匿名加工情報を第三者へ提供する場合は、あらかじめ「提供する情報の項目」と「提供方法」を公表します。

さらに、提供先に対して、提供する情報が匿名加工情報であることを明示しなければなりません。契約書やデータ送付時の文書などに明記する運用にしておくと、明示漏れを防ぎやすくなります。

作成する側|加工方法等情報の安全管理と識別行為の禁止

匿名加工情報を作成した企業には、加工後のデータだけでなく、加工方法等情報を適切に管理する義務があります(43条2項)。

加工方法等情報には、匿名加工情報を作成する際に削除した記述等や、加工方法に関する情報などが含まれます。こうした情報は元の個人情報を推測する手掛かりになり得るため、個人情報保護委員会規則に従って安全管理措置を講じる必要があります。

また、自ら作成した匿名加工情報について、本人を識別する目的で他の情報と照合することは禁止されています(43条5項)。

そのため、実務ではアクセス権限や取扱担当者を適切に管理するなど、匿名加工情報や加工方法等情報を不適切に利用できない体制を整えておくことが重要です。

受け取る側|識別行為の禁止と第三者提供時の公表・明示

匿名加工情報を第三者から受け取った企業にも、守るべきルールがあります。

まず、本人を識別する目的で、加工の際に削除された記述等や加工方法に関する情報を取得したり、匿名加工情報を他の情報と照合したりすることは禁止されています(45条)。

たとえば、自社が保有する顧客データと照合すれば本人を特定できそうな場合でも、本人を識別する目的で照合することはできません。

また、受け取った匿名加工情報をさらに第三者へ提供する場合には、あらかじめ「提供する情報の項目」と「提供方法」を公表し、提供先に匿名加工情報であることを明示する必要があります(44条)。

さらに、匿名加工情報を取り扱う企業には、安全管理や苦情処理などの措置を自主的に講じ、その内容を公表することも努力義務とされています(43条6項・46条)。

つまり、作成する側は「適切に作り、管理・公表する」、受け取る側は「再識別せず、再提供時のルールを守る」ことが基本です。

匿名加工情報・匿名化の企業活用事例

匿名加工情報は、個人を識別・復元できない状態を保ちながら、個票単位のデータを分析したり、第三者と共有したりできる点に特徴があります。

実際に、購買データを使ったマーケティングから医療・介護分野の研究、人事データの分析まで、さまざまな活用方法が考えられます。

個人情報保護委員会が公表している「事業者の匿名加工情報利活用事例集」をもとに、代表的な活用例を見ていきましょう。

購買履歴をマーケティングや商品開発に活用する

小売事業者が保有する購買履歴を匿名加工情報にし、メーカーや卸売事業者のマーケティングに活用する事例があります。

具体的には、ポイントカードなどから得られる「いつ・どの店舗で・何を・いくつ購入したか」というID-POSデータを加工し、商品の仕入れ元であるメーカーや卸売事業者へ提供します。

加工時には、会員IDを復元できない仮IDに変更し、氏名・住所・電話番号を削除するほか、年齢を複数の区分にまとめるなどの処理を行います。

提供を受けたメーカーや卸売事業者は、個人を特定することなく、商品を購入している顧客層や購買傾向を詳細に分析できます。その結果を、ターゲットを絞ったマーケティングや売り場の棚割りなどの販売施策に活用する仕組みです。

単純なPOSデータではなく、個人を識別できない状態で個々の購買履歴を残すことで、より詳細な分析が可能になります。

医療データを新薬開発や市場分析に活用する

医療分野でも、匿名加工情報を研究や商品開発に活用する事例があります。

個人情報保護委員会の事例集では、調剤薬局が保有する処方箋・調剤データを匿名加工し、専門のシンクタンクへ提供するケースが紹介されています。

加工時には、氏名・電話番号・住所を削除し、年齢を5歳単位に丸めるなどの処理を実施します。さらに、処方例の少ない薬などによって個人が特定される可能性がある場合には、追加で項目を削除するなどの対策を行います。

シンクタンクは、複数の調剤薬局から集めたデータを分析し、製薬会社や研究機関などへ提供します。製薬会社では医薬品の市場分析などに、研究機関では薬の服用状況などに関する研究に活用できます。

匿名加工によって個人を識別できない状態にすることで、本人一人ひとりから第三者提供への同意を得ることが難しい大量の医療データを、研究や事業に活用しやすくする事例です。

介護データをAIによるケアプラン作成に活用する

匿名加工情報とAIを組み合わせる活用方法もあります。

事例集では、介護事業者が保有するケアプランやアセスメント情報などを匿名加工し、AIを活用したケアプラン作成支援システムの開発に利用するケースが紹介されています。

対象となるのは、要介護度、利用したサービスの内容・期間・回数、健康状態、生活機能、認知機能、住居環境などの情報です。

氏名・電話番号・住所・生年月日を削除し、利用者IDを復元できない別のIDへ置き換えるほか、事例の少ない特殊なデータを削除するなどの加工を行います。

加工したデータを複数の介護事業者から集めてAIで分析することで、過去の利用者の状態と介護サービスの内容との関係を分析し、利用者の状態に応じたケアプランを提案するシステムの開発に役立てます。

AIの学習・分析では一定量のデータが必要になるため、本人の同意に依存せず、個人を識別できない状態で幅広いデータを集められることは、匿名加工情報を活用するメリットの一つです。

賃金・役員報酬データを経営アドバイスに活用する

匿名加工情報は、顧客や患者のデータだけでなく、企業の人事・報酬データにも活用できます。

個人情報保護委員会の事例集では、税理士事務所や公認会計士事務所が保有する役員報酬・従業員賃金などの情報を匿名加工し、システム事業者のデータベースに集約する事例が紹介されています。

対象となるのは、役員の年齢・勤続年数・報酬・退職金や、従業員の職務区分・性別・年齢・賃金・賞与などです。氏名・電話番号・住所・生年月日など、個人を直接特定できる情報は削除して提供します。

システム事業者は、集めた情報から業種・地域・企業規模などに応じた役員報酬や従業員賃金のデータベースを構築します。

税理士や公認会計士は、自社の取引先と似た企業の報酬・賃金水準を参照することで、顧客企業への税務・経営上のアドバイスに役立てることができます。

このように匿名加工情報は、単に個人情報を「見えなくする」ための仕組みではありません。個人を識別する必要はないものの、個票レベルの詳細なデータを分析・共有したい場面で、データの有用性を残しながら活用できることが大きな特徴です。

2026年改正個人情報保護法で匿名加工情報はどう変わる?

2026年7月、改正個人情報保護法が成立・公布されました。改正法は一部を除き、公布日から起算して2年以内の政令で定める日から施行される予定であり、2026年8月時点では主要な改正内容はまだ施行されていません。

また、今回の改正では、匿名加工情報の仕組みそのものが大きく変更されるわけではありません。

一方で、統計作成等を目的としたデータ活用について本人同意を不要とする特例が設けられるなど、匿名加工情報を含めたデータ活用の選択肢が広がります。

匿名加工情報との関係で特に押さえておきたいのは、次の3点です。

  • 統計作成等を目的とする場合の本人同意に関する特例が新設される
  • 匿名加工情報と「統計作成等」の特例を目的に応じて使い分ける必要がある
  • 一定の匿名加工情報にも不適正利用・不正取得に関する規制が及ぶ

※以下は2026年8月時点で公表されている情報に基づきます。具体的な対象範囲や運用については、今後制定される委員会規則やガイドラインなども確認する必要があります。

「統計作成等」が目的なら本人同意なしで第三者提供できる場合がある

今回の改正で注目したいのが、「統計作成等」のために個人データを利用する場合の特例です。

統計作成等とは、大量の情報を解析することによって、個々の本人との対応関係が排斥された形で、一定の傾向や性質などに関する情報を作成することなどを指します。たとえば、一定のAI開発が該当します。

これまで個人データを第三者へ提供する場合は、原則として本人の同意が必要でした。改正後は、統計作成等の目的に限定して利用するなど一定の条件を満たせば、本人の同意を得ずに個人データを第三者へ提供できる特例が利用できるようになります。

ただし、単に「AI開発に使う」というだけで本人同意が不要になるわけではありません。

第三者提供の特例を利用するためには、以下3点を満たす必要があります。

  1. 必要性:提供先がその情報を統計作成等目的で取り扱う必要があること
  2. 公表:提供する側と提供先の双方が、委員会規則で定める事項を公表していること
  3. 書面合意:提供先との書面による合意で、この規定による提供である旨が明確に定められていること

また、提供先では公表した目的を超えた利用や、提供された個人データのさらなる第三者提供が禁止されます。

つまり、個人データを加工せずに自由に共有できる制度ができるわけではなく、統計作成等という限定された目的のために、一定のガバナンスのもとで共有できるようになると理解するのが適切です。

匿名加工情報と「統計作成等の特例」は目的に応じて使い分ける

統計作成等の特例が設けられることで、「匿名加工情報は不要になるのでは」と考える方もいるかもしれません。

しかし、両者は利用できる条件や提供後の制約が異なるため、匿名加工情報が不要になるわけではありません。

利用目的・条件 主な選択肢 理由
個人を識別できない個票を第三者に提供したい 匿名加工情報 法定の加工を行うことで個票単位のデータを提供できる
提供先で幅広い分析に利用したい 匿名加工情報 統計作成等の特例のような利用目的の限定を受けない
社内で個人を識別せずに個票データを分析したい 仮名加工情報 他の情報との照合によって本人を識別できる状態を維持できる
複数社の個人データを統計作成等のために利用したい 統計作成等の特例 一定の条件を満たせば、匿名加工情報に加工せず第三者提供できる

大きな違いは、データを加工してから提供するのか、利用目的を厳格に限定したうえで個人データのまま提供するのかです。

匿名加工情報は、個人を識別・復元できない状態まで加工する必要がある一方、提供後の利用目的は統計作成等の特例ほど限定されません。

一方、新たな特例では匿名加工情報まで加工する必要がない代わりに、提供された情報を「統計作成等」以外の目的に利用したり、さらに第三者へ提供したりすることはできません。

つまり、改正後は「とりあえず匿名加工情報にする」のではなく、誰に提供するのか、提供先で何をするのか、どの程度のデータ粒度が必要なのかを整理して手段を選ぶことがより重要になります。

一定の匿名加工情報にも不適正利用・不正取得の規制が及ぶ

2026年改正では、データ活用を促進する一方で、不適切なデータ利用への規制も強化されます。

その一つが、「連絡可能個人関連情報」に関する規律の新設です。

連絡可能個人関連情報とは、電話番号・メールアドレス・Cookie IDなど、特定の個人に連絡するために利用できる一定の記述等を含む個人関連情報を指します。

改正後は、こうした情報について、違法または不当な行為を助長・誘発するおそれがある方法による利用や、偽りその他の不正な手段による取得が禁止されます。

さらに、この規律は一定の記述等を含む仮名加工情報や匿名加工情報にも準用されます。

つまり、匿名加工情報についても、「匿名加工したのだから、どのような方法で取得・利用してもよい」という考え方はできません。データの性質や利用方法まで含めて適正な取り扱いを確保する必要があります。

課徴金制度の導入で「適切に加工できているか」がより重要になる

今回の改正では、個人情報保護法に課徴金制度も導入されます。

一定の違反行為によって財産上の利益を得た場合などには、個人情報保護委員会から課徴金の納付を命じられる可能性があります。

これは、匿名加工情報を扱う企業にとっても無関係ではありません。

たとえば、匿名加工情報として第三者へ販売していたデータが、実際には加工基準を満たしておらず、個人データに該当していたとします。その提供について本人同意など適法な根拠がなければ、個人データの第三者提供規制に違反する可能性があるのです。

そのため、これまで以上に重要になるのが、「匿名加工情報として適切に作成した」と説明できる状態を整えておくことです。

どのデータを対象とし、どのようなリスクを評価して、どの加工ルールを適用したのかを記録しておけば、加工の妥当性を後から検証できます。

2026年改正は、匿名加工情報を不要にするものではありません。むしろ、データ活用の選択肢が増える一方、それぞれの制度を正しく選択し、適法な取り扱いを説明できるデータガバナンスがこれまで以上に重要になる改正と捉えるとよいでしょう。

まとめ|匿名加工情報を正しく理解し、安全なデータ活用を進めよう

匿名加工情報は、特定の個人を識別できず、元の個人情報を復元できないよう適切に加工した情報です。単なるマスキングとは異なり、法令で定められた基準に沿った加工や、作成・第三者提供時の公表、識別行為の禁止など、企業にはさまざまな対応が求められます。

また、データの利用目的によっては、匿名加工情報ではなく仮名加工情報や統計情報が適している場合もあります。2026年の個人情報保護法改正では「統計作成等」に関する新たな特例も設けられるため、今後は目的に応じて適切な方法を選択することがより重要になるでしょう。

そして、匿名加工情報を継続的に活用するには、法律を理解するだけでなく、膨大なデータから個人情報を検出し、一定のルールで加工し続けられる仕組みも欠かせません。制度への対応と実際の加工プロセスを一体で設計することが、安全かつ効率的なデータ活用につながります。

丸紅I-DIGIOグループでは、データ活用基盤の構築からデータマスキング、セキュリティ対策まで一貫して支援しています。

データマスキングソフトウェア「Insight Masking」は、日本語に最適化されたLLMを搭載し、個人情報や機微情報を自動で検出・マスキングできます。フリーテキストに含まれる個人情報の検出や、データベースのマスキングにおいてテーブル間の参照整合性を維持した加工にも対応可能です。


Insight Maskingは、株式会社インサイトテクノロジーが開発した製品です。

安全なデータ活用に向けて匿名化・マスキングの仕組みを整備したい企業は、ぜひInsight Maskingをご活用ください。

個人情報を含むデータの活用に、こんなお悩みはありませんか?

  • 顧客データを分析・活用したいが、個人情報の取り扱いに不安がある
  • 氏名や住所のマスキング・匿名化を手作業で行っており、負担も漏れのリスクも大きい
  • 法改正も見据えて、匿名加工・マスキングを継続できる仕組みを整えたい

上記のようなお困りごとがありましたら、データマスキングソフトウェア「Insight Masking」をご検討ください。日本語に最適化されたLLMを搭載し、個人情報や機微情報を自動的に検出してマスキングします。フリーテキスト中の個人情報抽出に加え、データベースのマスキングではテーブル間の参照整合性を保ったまま加工することも可能です。

\AIで個人情報を自動検出・マスキング/

Insight Maskingの資料ダウンロードはこちら