なぜ現場でデータが活かせないのか? ― データ活用を阻む3つの壁
多くの企業がBIツールやデータ基盤に投資を行っています。それでもなお「現場でデータが使われない」という悩みが解消されないのはなぜでしょうか。実務の現場を観察すると、データと利用者の間に大きく3つの壁が存在します。
- SQL・クエリの壁:データベースから欲しい情報を取り出すには、テーブル構造の理解とSQLの記述スキルが必要です。多くの業務担当者にとって、これは高いハードルです。
- BIツールの壁:定型的なレポートを見るなら優秀なBIツールも、「今ふと気になったデータ」を即座に抽出・可視化することは難しく、使いこなすまでのハードルも高い傾向にあります。
- 依頼運用の壁:結局は情シスやデータ担当への抽出依頼に頼ることになり、リードタイムの発生・担当者への負荷集中・属人化を招きます。
この3つの壁により、「データはあるのに、必要な人が必要なタイミングで使えない」という状態が生まれ、意思決定のスピードを鈍らせているのです。
従来の解決策とその限界
では、これらの壁に対して従来はどのようなアプローチが取られてきたのでしょうか。代表的な3つの手段には、それぞれ限界があります。
BIツールの導入
定型的なレポーティングには有効ですが、想定外の問いにはダッシュボードの作り替えが必要となり、結局はデータ担当へ頼らざるを得ません。ツールの習得コストも無視できません。
データ抽出依頼の運用
担当者が対応するため正確性は担保されますが、リードタイムと工数が発生し、依頼が集中すればデータ担当がボトルネックになります。ナレッジが個人に閉じる属人化のリスクもあります。
汎用の生成AI(チャットツール)の単体利用
自然言語での対話は得意な一方、社内データベースに直接アクセスできないため、実データに基づいた回答が得られません。事実に基づかない"それらしい回答"(ハルシネーション)のリスクや、データを外部サービスに渡すことへのセキュリティ懸念も残ります。
つまり求められているのは、「自然言語の手軽さ」「社内データに基づく正確さ」「データの取り扱いをコントロールできる安全性」を同時に満たす仕組みです。それを実現するのが Select AI です。
Select AIとは?
Select AI は、Oracle Autonomous AI Database(自律型AIデータベース)に統合された生成AI機能です。最大の特徴は、自然言語による問い合わせから SQL の生成・実行までを、データベース内でネイティブに処理する点にあります。
SQLの実行はデータベース内で行われ、SQLを生成するためにLLMへ送信される情報(スキーマ情報やプロンプトなど)や、接続先のプロバイダは、利用する機能や設定に応じて管理できます。また、利用するLLM(大規模言語モデル)はOCIをはじめ複数のプロバイダから選択でき、プライベートにホストしたモデルを用いることも可能です。
Select AI が備える主な機能は次のとおりです。
- NL2SQL(自然言語→SQL):日本語などの自然言語による質問を、データベースのスキーマに基づいてSQLへ変換し、実行します。
- RAG(検索拡張生成):ベクトル索引を用いた意味的な類似検索により、自社ドキュメントの内容に基づいた回答を生成します。回答の根拠性を高め、事実に基づかない回答(ハルシネーション)のリスク低減に役立ちます(ただし、LLMによる誤りを完全に防ぐものではありません)。
- Conversation(会話):マルチターン対話の文脈を保持し、前の結果を踏まえたフォローアップの問いに応答します。
- AIエージェント:複数ステップの処理を自動化するワークフローをデータベース内で構築・実行します。
- SQLの確認・結果の文章化:生成されたSQL(Show SQL)の確認や、結果を自然な文章で説明するNarrateなどのアクションを備えます。
Select AI + APEX で何ができるのか ― 検証で確認した機能
今回の検証では、Oracle公式のAPEXサンプルアプリケーション「Ask Oracle」を土台に、チャットボットアプリケーションを構築・評価しました。Ask Oracle は、Select AI をノーコードで扱えるチャットボットUIを提供する公式サンプルです。
はじめに、どこまでがSelect AIの機能で、どこからがAPEXの機能なのかを整理しておきます。ひとことで言えば、Select AIは「自然言語を理解してSQLや回答を生成する"頭脳"(データベース側)」、APEXは「その結果を表示し、操作・出力を担う"画面(アプリ側)"」という役割分担です。
| 担い手 | 役割・主な機能 |
| Select AI(Autonomous AI Database側) | 自然言語の理解とSQL生成・実行(NL2SQL)、RAG、会話の文脈保持(Conversation)、LLMとの対話(Chat)、結果の文章化(Narrate) |
| Oracle APEX(アプリ・画面側) | チャット画面などのUI、結果の表表示、チャートの描画、保存・エクスポート(CSV等)、オブジェクトストレージへの出力 |
この前提で、Ask Oracle に標準で備わる機能を「担い手」とともに整理すると次のとおりです。
| 機能 | 内容 | 担い手 |
| Chat | LLMと直接対話する | Select AI |
| NL2SQL | 自然言語からSQLを生成・実行する | Select AI |
| RAG | ベクトル索引で自社データに基づいて回答する | Select AI |
| エージェント | AIエージェントによるワークフローを実行する | Select AI |
| チャート生成 | 返ってきたデータを棒グラフなどに描画する | APEX |
| Show SQL / Narrate | 生成SQLの表示/結果の文章化を行う | Select AI+APEX |
さらに本検証では、実務での活用を見据えて、サンプルに以下の機能を追加しました。
- 結果の保存・共有(APEX側で実装):SQLの結果やチャートを、CSV・Excel・HTML・PDFといった外部で使える形に出力・保管できます。OCIオブジェクトストレージへの保存にも対応します(現時点ではCSV、およびチャートのPNG保存に対応)。
- Conversation分析(Select AIの会話機能を活用):会話の文脈を保持するため、前の結果を受けて問いを重ねられます。たとえば「国別の売り上げTOP10を表示して」で結果を得たあと、「売り上げが一番高い国は?」と続けると、機能をNL2SQLからChatに切り替えても文脈を引き継ぎ、直前の結果をもとに回答します。
検証で見えた「使い方」― 4ステップの実際
検証を通じて確認できたのは、BIツールへの持ち替えやSQLの記述をすることなく、検索から分析までを同じチャット画面で完結できるという体験です。ここでは実際の検証画面に沿って、4つのステップで紹介します。
- ① 自然言語で検索:「国別の売り上げTOP10を表示して」と入力するだけでSQLが生成・実行され、10カ国の総売上が即座に表示されます。「SQLクエリを表示」を押せば、生成されたSQLも確認できます。

- ② チャート化:表示された結果を、画面の「グラフをカスタマイズ」からグラフの種類とX軸・Y軸を選ぶだけで、棒グラフなどに可視化できます。

- ③ 保存・出力:チャート画像やCSVを、画面のボタンからオブジェクトストレージへ保存・エクスポートできます。保存が完了すると画面に通知が表示されます。

- ④ Conversationで分析:前の結果を受けて追加の問いを重ねられます。「売り上げが一番高い国は?」とChatで続けると、機能をNL2SQLからChatに切り替えても文脈を引き継ぎ、直前の結果をもとに「日本」と回答します。

検証で行った操作と、その方法・見せどころを整理すると次のようになります。検索と会話分析は自然言語で、チャート化とファイルの保存・エクスポートは画面のボタンで操作しました。
| 操作内容 | 操作方法 | 見せどころ |
| 「国別の売り上げTOP10を表示して」 | 自然言語(NL2SQL) | 聞くだけでSQLが生成・実行され10カ国を即表示 |
| 結果を棒グラフにする | 画面のグラフ操作 | グラフの種類・軸を選ぶだけで可視化 |
| チャート・CSVをオブジェクトストレージへ保存 | 画面のボタン | 保存完了を通知で確認 |
| 「事業部別の先月と先々月の売り上げを表示して」 | 自然言語(NL2SQL) | 先月・先々月を並べた比較表を一度に生成 |
| 結果をCSVでエクスポートする | 画面のCSVボタン | オブジェクトストレージへ出力 |
| 「売り上げが一番高い国は?」 | 自然言語(Chat・会話) | Chatに切り替えても文脈を維持し「日本」と回答 |
Select AIが課題を解決できる理由
冒頭で挙げた3つの壁に、Select AI + APEX がどう応えるのかを改めて整理します。
- SQL・クエリの壁 → 自然言語で問いかけるだけでSQLが自動生成・実行され、専門知識がなくてもデータにたどり着けます。
- BIツールの壁 → その場で思いついた問いにも即座に応答し、可視化までチャット画面で完結。ツールの持ち替えが不要です。
- 依頼運用の壁 → 現場が自己完結できるため、データ担当への抽出依頼と、それに伴うリードタイム・負荷・属人化を軽減します。
- 正確性・セキュリティ → SQLの実行はデータベース内で行われ、LLMへの送信対象や接続先も管理できます。またRAGにより社内データに基づいた回答が得やすくなり、ハルシネーションのリスク低減に役立ちます。
結果として Select AI は、「データを見たい現場」と「依頼に追われるデータ担当」の双方の負担を同時に軽減し、データ活用の民主化を後押しします。
おわりに
データドリブンな意思決定が競争力を左右する時代において、「必要な人が、必要なタイミングで、自らデータを扱える」環境づくりは、多くの企業にとって重要なテーマです。Select AI + APEX は、自然言語という誰にとっても身近なインターフェースで、その実現を強力に後押しします。
丸紅I-DIGIOグループ DXソリューション事業本部では、本検証で得た実践的な知見をもとに、お客様のデータ活用・生成AI活用の検討を、構想段階から伴走してご支援します。
「社内データをもっと現場で活かしたい」「生成AIを業務に組み込みたいが、進め方に悩んでいる」といった課題をお持ちの際は、ぜひ丸紅I-DIGIOグループにご相談ください。
