株式会社Zene様

法人向けゲノム解析サービスの基盤にGCP(Google Cloud Platform)を採用。丸紅情報システムズのサポートのもと検証を実施、データ活用環境を高く評価。

法人向けゲノム解析サービス「Zene360」を提供するZene(ジーン)。同社は、2020年に創業したばかりのスタートアップだ。Zene360は、健康保険組合を中心に導入が急速に進む。2021年に、同社は今後の事業拡大を見据え、ゲノム解析基盤の構築に着手。ゲノム解析データの活用に適した機能と、ライフサイエンスに強みを持つことから、クラウドコンピューティングサービスGCP(Google Cloud Platform)を採用した。GCP初心者が多い中で、決め手となったのが「Google for Startupsクラウドプログラム」だ。丸紅情報システムズのサポートのもと様々な検証を実施し、同社のニーズに応えるゲノム解析基盤を構築。GCPによるゲノム解析基盤は、国内ゲノム解析市場を拓くZeneの躍進とともに成長していく。

  • 性能と拡張性に優れたゲノム解析基盤を構築したい
  • ゲノム解析データを活用できる環境を整備したい
  • コストをかけず、GCPを使って様々な検証を行いたい

01[導入の背景]
法人向けゲノム解析サービスで市場に新風
利用者数増加に応える解析基盤構築が急務に

1人1人の設計図と呼ばれるゲノム情報。それらを解析することで、病気のなりやすさ、体質などが分かることから予防に役立てることができる。しかし、一般的にゲノム解析サービスは高額で敷居が高いのが現状だ。「ゲノムをより身近に、あたりまえの世界に」というスローガンを掲げるZeneは、法人向けビジネスモデルで市場に新風を吹き込む。

なぜ、法人向けなのか。その理由をZene 取締役 有地正太氏は話す。「病気の予防に対して関心が低い人も多くいます。個人ではなく、個人が所属する組織における予防ニーズに着目しました。事業対象としたのは。将来的な医療費最適化、組合員のQOL(生活の質向上)を目指す健康保険組合と、健康経営に取り組む企業です」

Zeneが提供するゲノム解析をベースとしたヘルスケアサービス「Zene360」は、一般向けゲノム解析とは一線を画す。「検査項目数の多さを競う一般的なゲノム解析と異なり、Zene360は2型糖尿病、心疾患、脳梗塞、肺がん、大腸がん、乳がん、前立腺がんの7つの疾患に絞って深く解析します。例えば、日本人における2型糖尿病のリスクに関連する遺伝子は約1,000個報告されています。一般的なゲノム解析の多くが数個をピックアップし検査を行っているのに対し、Zene360はすべてを検査対象とし専用AIモデルを開発。コストも手間もかかるのですが、健康保険組合や企業が利用するため検査の質が問われます。さらに、約290項目の体質的傾向が分かる情報も提供します」

Zene360は、健康保険組合向けサービスが先行。企業向けサービスは複数企業でトライアルが行われている。現在、60の健康保険組合がZene360を採用。目標は、健康保険組合全体の約1/4を占める500の組合への導入だ。健康保険組合でZene360の導入が進む理由について有地氏は説明する。

「健康保険組合は、健康診断の結果をもとに特定保健指導を受けるように従業員を促します。しかし、強制ではなく任意であるため、指導を受けないことがあるのも現状です。Zene360は、唾液採取キットによりゲノム解析を自宅で簡単に行え、発症リスクを調べることができます。健康保険組合では、Zene360によるゲノム解析サービスを無料提供しているケースも多く、費用がかからないならと、従業員にとって敷居が非常に低いのです。また、従業員本人に解析結果のレポートを提供する際に、健康保険組合が有する過去の健康診断情報とゲノム解析の結果を組合せて予防方法を提示。さらに禁煙アプリ・禁煙外来との連携など、行動変容に繋がる情報を一気通貫で提供している点が高く評価されています」

Zene360ではゲノム解析結果から予防対策まで一気通貫で情報を提供する。

2020年創業のZeneにおいて、1年目はシステム開発。2年目から本格的にZene360の事業展開を開始するとともに、今後の事業拡大を見据え、ゲノム解析基盤構築に着手した。

02[導入の経緯]
ゲノム解析基盤の社内運用は困難
データ活用の観点からGCPに注目

当初、Zene360のゲノム解析はセキュアルームで解析用マシンを使ってオンプレミスで行っていたと、Zene CTO(Chief Technology Officer)の穴井宏幸氏は振り返る。「解析規模の拡大に伴い、マシンのリソースも不足し、拡張するほどに運用が難しくなるのは目に見えていました。次期解析基盤の構築では、3つの選択肢がありました。1つ目はオンプレミスの既存基盤の強化。2つ目は健康保険組合の従業員様の受付業務で使っていた他社製クラウドサービスの拡張。3つ目は、第3のクラウドサービスの活用。当社の限られたスタッフで解析基盤を運用するのは難しいため、クラウドサービスの採用を前提に検討を進めました。第3のクラウドサービスとして、ゲノム解析基盤の観点から注目したのがGCP(Google Cloud Platform)でした」

GCPに関心を抱いたポイントについて穴井氏は話す。「Zene360によるゲノム解析サービスの、さらにその先のビジネスとしてゲノム解析データの活用を計画しています。データ活用の観点から、ビッグデータを高速に扱えるデータベースBigQueryや、BIプラットフォームLookerなどGCPのサービスは魅力的でした。『まずは試してみよう』ということになりました」

03[導入のポイント]
Google for Startupsクラウドプログラムを利用
丸紅情報システムズのサポートのもと検証を実施

GCPの試験導入を検討していたタイミングで出会ったのが、GCPに関する技術と知見を有する丸紅情報システムズだった。「ターニングポイントとなったのが、丸紅情報システムズからGoogle for Startupsクラウドプログラムを紹介してもらったことです」と有地氏は話し、こう続ける。

「同プログラムは、専任のスタートアップエキスパートのサポート、2年間にわたってチケットベースの資金支援などが受けられるものです。当社には、GCPを触ったことのないスタッフも多かったため、同プログラムを使って様々な検証を行えたことは有意義でした。CPU、メモリ、ディスク容量などを変更し、インフラの最適化を追求。検証とはいえ、ゲノム解析に1日以上を要したため、コストを気にすることなく計算リソースを使えたことは非常に助かりました」

検証期間の間、丸紅情報システムズから手厚いサポートを受けたと有地氏は話す。「GCPのアカウントのつくり方から教えてもらいました。自分で調べてもわかると思うのですが、インターネット検索で調べる時間も惜しいというのが本音でした。検証段階では、様々な質問や疑問が出てきます。丸紅情報システムズに『こういうことは技術的に可能ですか?』と質問すると情報提供はもとより、同社で対応が難しい場合はGoogle技術サポートに繋いでくれました」

Google技術サポートから、ライフサイエンス分野におけるBigQueryの海外先行事例の紹介も受けたと穴井氏は話し、説明する。「GCPのライフサイエンスのサービスを使ってゲノムデータをBigQueryにインポートする事例です。日本でまだ余り使われていなかったのでとても参考になりました。データ構造を持ったかたちでゲノムデータを保有できるBigQueryは、実際に使い勝手が良かったです。性能も高く、並列処理の時間短縮も実現できます」

「ゲノム解析をするときのバッチ処理に関してもGoogleのエンジニアに相談しました」とZene 波平真実氏は付け加え、話を続ける。「運用負荷軽減の観点から、フルマネージド型のサーバーレスプラットフォームで、コンテナ(アプリケーションやOSファイルなどを集約したパッケージ)の実行環境を構築できるGoogle Cloud Runは非常に魅力的です。バッチ処理の実装が非常に楽に行えました」

「検証を通じて、MSYSのサポートを受けながらGCPの技術や機能に触れたことで、解析基盤にGCPを採用するという方向に大きく舵を切りました。現在、Zene360におけるゲノム解析基盤はGCPを利用しています」と穴井氏は話す。

04[今後の展望]
事業拡大とともにゲノム解析基盤も成長
ゲノム解析データを活用し新たな価値を創造

Zene360では、現在1人のゲノム解析で80万カ所の変異を見ており、解析結果が出るのに48時間を要している。「検証前は、一週間はかかると思っていました。想定よりも随分早いという印象です。技術革新によりプロセッサが進化し、数時間、数分で解析可能になるとサービスの仕組みも変わります。GCPといったクラウドサービスは、最先端技術を利用できる点もメリットです。今後、GCPにおけるライフサイエンスのサービスを積極的に活用するとともに、運用の自動化にも取り組んでいきたいと思います」(波平氏)

穴井氏は、解析基盤のスケールアップについて言及する。「現在は、並列処理で数千人のゲノム解析を行っていますが、事業計画ではここ数年で処理対象が万単位規模となる想定です。随時、クラウドの特性であるスケーラビリティを生かし基盤構成を切り替えていきます。また、規模拡大に伴いコストやパフォーマンスの最適化も重要なテーマです」

有地氏は、Zene360のビジネス展望を話す。「健康保険組合向け事業は導入500組合の目標達成、企業向け事業は事例を増やし事業拡大を図っていきます。ゲノム解析データの活用では、大学や研究機関などに対しLookerを活用したサービスの提供を検討中です。新たな局面として、2023年11月に医療ビッグデータを活用した事業を展開する大手企業と業務提携を結びました。その提携企業が提供している健康保険組合向けアプリでZene360の購入が可能となります。また、医療ビッグデータと、Zene360のゲノム解析データを組合せた新しい健康ソリューションの創造など連携を深めていきます」

スタートアップは事業フェーズが移り変わっていく。「いきなり大規模な解析基盤は用意できません。事業とともに解析基盤も成長していくことが重要です。丸紅情報システムズは、成長プロセスを一緒に歩むことができるパートナーだと思っています。また、将来的に運用監視や一部サービスを丸紅情報システムズに委託可能であるというのは安心材料です」(有地氏)

国内ゲノム解析サービス普及の可能性を切り拓くZene。丸紅情報システムズはGCPの知見とノウハウを駆使し同社を支援することで、健康で豊かな社会づくりに貢献していく。

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