川から離れた場所でも起きる都市型水害
都市型水害の多くは、河川の決壊ではなく、降った雨が排水しきれずに地表へあふれる内水氾濫で起こります。被害の中心がどこにあるのかを、規模と条件から整理します。
| 観点 | 要点 |
|---|---|
| 発生の形 | 河川の決壊ではなく、排水能力を超えた雨水が地表にあふれる |
| 被害の規模 | 水害による浸水棟数のうち約6割が内水氾濫によるもの |
| 起きる条件 | 短時間の集中豪雨で下水道や排水路の処理能力を超えたとき |
都市型水害は内水氾濫で起きる
都市型水害の多くは、河川の水があふれる外水氾濫ではなく、降った雨が排水されずにたまる内水氾濫で発生します。下水道や排水路の処理能力を超えた雨水は行き場を失い、道路の雨水ますから逆流することもあります。周囲より低い土地や半地下は、その水が集まりやすい場所です。川から数キロ離れた市街地でも浸水は起きるため、立地の近さだけで安全とは言い切れません。
浸水棟数の約6割を内水氾濫が占める
国土交通省の資料では、水害による浸水棟数のうち約6割が内水氾濫によるものとされています。河川の決壊は被害が大きく報道されやすい一方、件数で見ると集中豪雨による内水被害のほうが多いのが実情です。都市部の企業にとっては、頻度の高いリスクに位置づけられます。
1時間50ミリ超で排水が追いつかない
都市の下水道は、1時間あたり50ミリ前後の降雨を想定して整備されてきました。この水準を大きく超える雨が短時間に降ると、処理しきれない分が路面にあふれます。同じ雨量でも、地形の勾配や排水先の水位によって冠水の度合いは異なるのが一般的です。排水能力には上限があるという前提で、拠点周辺の低い場所を見ておくと判断しやすくなります。
都市型水害が増えた3つの要因
被害が増えている背景には、雨の降り方の変化と、都市の作りに由来する要因が重なっています。3つの要因は性質が異なり、打てる手も変わります。
| 要因 | 何が起きているか |
|---|---|
| 雨の降り方 | 短時間強雨の年間発生回数が長期的に増加している |
| 地表の状態 | 舗装や建物に覆われ、雨水が地中へしみ込まない |
| 都市の構造 | 地下駐車場や地下街など、地表より低い空間の利用が拡大 |
ゲリラ豪雨や線状降水帯が増えた
ゲリラ豪雨や線状降水帯のように短時間に強く降る雨の発生回数は、長期的に増えています。気象庁のアメダス観測では、3時間降水量100ミリ以上の年間発生回数が最近10年間の平均で約248回となりました。統計開始当初の10年間(1976〜1985年)の約155回と比べると、約1.6倍の水準です。1時間に80ミリ以上の猛烈な雨も年間発生回数が増えており、従来の排水能力を前提にした想定では収まらない雨が現実に起きています。
舗装で雨水が地面にしみ込まない
都市では地表の多くが舗装や建物に覆われ、雨水が地中へしみ込まないまま排水路へ集まります。土や緑地には水を一時的にためる働きがある一方、アスファルトではその働きが期待できません。流出のピークが早く高くなるため、同じ雨量でも郊外より冠水が起きやすくなります。
地下駐車場など地下利用が進んだ
地下駐車場や地下街のように地表より低い空間が増えたことで、浸水時の損失が大きくなりました。国土交通省は、地上の状況を把握しにくいこと、氾濫水が一気に流入すること、避難経路が限られることを地下空間のリスクに挙げています。設備や車両、書類を地下に置く拠点では、浸水深が浅くても被害が重くなるケースもあります。
都市型水害で企業が受ける被害
企業の損失は、建物の損傷よりも設備の停止と人の移動が止まる影響のほうが大きくなります。被害は設備、人と物流、取引先の3方向へ広がります。
| 被害の種類 | 具体的な影響 |
|---|---|
| 設備 | 受変電設備やサーバーの冠水で停電やシステム停止が長引く |
| 人と物流 | 道路冠水で出社や配送が止まり、営業を続けられない |
| 取引先 | 納期遅延や欠品が波及し、信用の回復に負担がかかる |
受変電設備の冠水で停電が続く
地下や1階に置いた受変電設備が冠水すると、建物に損傷がなくても停電が続きます。令和元年東日本台風では高圧受変電設備の浸水による停電が発生し、国土交通省と経済産業省は建築物における電気設備の浸水対策ガイドラインを策定しました。復旧には機器の調達と交換が必要になるため、水が引いてもすぐには戻りません。停電が続く間は、照明も空調もエレベーターも使えない状態です。
報道発表資料:「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」をとりまとめました~洪水等の発生時における機能継続に向けた対策を提示~ - 国土交通省
道路冠水で出社と物流が止まる
道路が冠水すると、拠点が浸水していなくても出社と配送が止まります。水深は見た目では判断しにくく、車両の立ち往生も起こりがちです。従業員の安全を優先して出社を見合わせれば、窓口業務や生産は停止します。冠水が解消しても、周辺道路の渋滞や公共交通の乱れが残ることが多いです。
営業停止が取引先にも波及する
自社の営業停止は、納期遅延や欠品という形で取引先にも波及します。部品供給や物流の一部を担う企業ほど、影響の及ぶ範囲は広くなりがちです。復旧費に加えて、停止期間に失われた売上と信用の回復にかかる負担まで含めると、被害の見え方が変わります。
都市型水害のリスクはどう調べる?
自社拠点のリスクは、内水ハザードマップで浸水深を確認し、建物内の設備配置を点検する2段構えで把握できます。立地、地形、設備の3点を押さえると、拠点ごとの危険度を比べられます。
| 確認の対象 | 判断材料 |
|---|---|
| 立地 | 内水ハザードマップの想定浸水深と浸水範囲 |
| 地形 | 周囲より低い窪地、半地下、傾斜の下側にあるか |
| 設備 | 受変電設備・サーバー・非常用発電機の設置階 |
内水ハザードマップで深さを確認
拠点の浸水リスクは、市区町村が公表する内水ハザードマップで想定浸水深を確認するところから始まります。洪水ハザードマップが河川の氾濫を対象にしているのに対し、内水ハザードマップは排水能力を超えた場合の浸水を示したものです。河川の想定区域外でも内水では浸水が想定される場所があるため、両方を重ねて見ておくと見落としを防げます。
窪地や半地下の拠点を洗い出す
複数拠点を持つ企業は、周囲より低い窪地や半地下にある拠点から優先して洗い出します。水は低いほうへ集まるため、同じ町内でも数十センチの高低差で浸水の有無が分かれることがあります。地図の等高線や過去に冠水した道路の情報も、有力な手がかりです。
重要設備が地下にないか点検する
受変電設備やサーバー、非常用発電機が地下や1階にある拠点は、浅い浸水でも事業停止につながります。電気設備の浸水対策ガイドラインが示しているのは、想定浸水深より高い階への設置と、低い階に置く場合の防水区画化です。図面上の設置階に加えて、ケーブル引き込み口や換気口の高さまで確認すると、弱点が具体的に見えてきます。
報道発表資料:「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」をとりまとめました~洪水等の発生時における機能継続に向けた対策を提示~ - 国土交通省
都市型水害を防ぐ建物側の対策
建物側の対策は、水を入れない、水が届かない高さへ移す、排水を妨げないという3方向で整理できます。同じ予算でも、どの方向に使うかで効果の性質が変わります。
| 対策の方向 | 具体策 |
|---|---|
| 入れない | 止水板や土のうで出入口・地下入口をふさぐ |
| 届かせない | 受変電設備やサーバーを想定浸水深より高い階へ移す |
| 流す | 排水溝や雨水ますの清掃で排水能力を保つ |
止水板や土のうで開口部をふさぐ
出入口や地下への入口に止水板や土のうを置くと、浸水深が浅い段階では水の侵入を抑えられます。国土交通省は、地下街等における浸水防止用設備整備のガイドラインで設備の選定や設置の考え方をまとめています。設置に人手と時間がかかる方式では、誰がいつ設置するかを決めていないと間に合いません。
出入口や地下入口をかさ上げする
開口部のかさ上げは、人手を介さずに浸水を防げる対策です。出入口に段差を設ける方法や、地下駐車場のスロープ入口を立ち上げる方法があり、改修に合わせて組み込めば運用の負担が増えません。バリアフリーとの両立が課題になる場合は、常設の立ち上がりと可動式の止水板を組み合わせる方法も取られています。
受変電設備とサーバーを上階へ移す
浸水しても止めたくない設備は、想定浸水深より高い階へ移すと被害を避けやすくなります。移設には費用と工期がかかるため、機器の更新時期に合わせた計画が現実的です。低い階に残さざるを得ない場合は、防水扉や区画化で守る方法が選択肢に入ります。
排水溝と雨水ますを清掃する
敷地内の排水溝や雨水ますの清掃は、費用をかけずに排水能力を保てる対策です。落ち葉やごみが詰まると、設計上の能力があっても水がはけません。梅雨入り前と台風期の前を点検時期として決めておくと、対応が現場任せになりにくくなります。
都市型水害で事業を止めない対策
設備の対策だけでは浸水を防ぎきれないため、早く気づく仕組みと、止まらない業務の形をあわせて用意します。検知、判断、継続の3点が軸になります。
| 備えの対象 | 打ち手 |
|---|---|
| 検知 | 浸水センサーや水位情報で異変を早く把握する |
| 判断 | 気象情報に応じた閉鎖・退避の基準を事前に決める |
| 継続 | データの遠隔バックアップと在宅勤務で業務を続ける |
浸水センサーで水位を早く把握する
地下空間は地上の状況が見えにくいため、水位や浸水を検知する仕組みがあると初動が早まります。国土交通省も、地上の状況が把握しにくい点を地下空間のリスクに挙げています。検知してから誰が何をするかまで決めておかないと、警報が行動につながりません。
気象予測に応じた閉鎖基準を決める
地下駐車場や地下倉庫の閉鎖は、現場判断ではなく事前に決めた基準で動かします。水防法では、市町村地域防災計画に位置づけられた地下街等に避難確保・浸水防止計画の作成が求められる仕組みです。令和8年3月末時点で、対象942施設のうち858施設が計画を作成済みで、訓練まで実施した施設は716にとどまります。作成と訓練をそろえておくと、短時間で判断を迫られる場面でも動けます。
データを遠隔地にバックアップする
拠点が浸水してもデータを失わないようにするには、同じ建物ではなく遠隔地にバックアップを置きます。サーバー室が地下にある拠点では、機器とバックアップ媒体が同時に水没しかねません。クラウドや遠隔のデータセンターへ複製しておけば、建物が使えない期間でも業務システムは動かせます。
在宅勤務で出社不能に備える
道路冠水で出社できない事態に備えるなら、在宅勤務で業務を続けられる体制が有効です。社内でしか使えない仕組みへの依存を減らし、リモートから基幹業務にアクセスできる状態にしておくと、出社可否に左右されません。災害時だけ特別な運用へ切り替える形では機能しにくいため、平時から使える環境にしておくと、出社できない状況でも業務を続けやすくなります。

都市型水害対策はどこから着手する?
着手順は、想定浸水深と重要設備の設置階から危険度を測り、助成制度と損失額を踏まえて決めます。危険度、費用、損失の3つを並べると、稟議でも順番を説明しやすくなります。
| 判断軸 | 見るポイント |
|---|---|
| 危険度 | 想定浸水深と重要設備の設置階の組み合わせ |
| 費用 | 自治体の助成金や国の交付金・補助金、税制の対象か |
| 損失 | 復旧費と営業停止による機会損失の大きさ |
浸水深と設備の階層で危険度を測る
優先順位が高いのは、想定浸水深が深く、重要設備が低い階にある拠点です。想定30センチの拠点と3メートルの拠点では、必要な対策も費用も変わります。拠点ごとに浸水深と設備配置を一覧にすると、感覚ではなく条件で順番を示せます。
止水板は自治体の助成金を使える
止水板などの浸水防止用設備は、自治体の助成金や国の交付金・補助金、税制の対象になる場合があります。国土交通省が公開しているのは、地下街等の浸水対策に使える交付金・補助金と税制の資料です。条件や上限は制度ごとに異なるため、着工前に窓口へ確認しておくと、予算計上の精度が上がります。
復旧費と機会損失で投資を判断する
投資判断では、設備の復旧費だけでなく、営業停止による機会損失まで含めて比較します。受変電設備の交換には機器の調達期間が伴い、その間に失われた売上は戻りません。復旧費と停止日数の想定を並べて示すと、対策費の大きい施策でも社内の合意を得やすくなります。
まとめ
都市型水害の対策は、内水氾濫を前提に拠点の浸水リスクを確認するところから始まります。止水板やかさ上げは水の侵入そのものを抑え、データの遠隔保全や在宅勤務の体制づくりは浸水後に業務を戻すまでの時間を縮めるというように、打ち手ごとに効く場面が分かれます。
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