Zero Networksの事業成長が示す「セグメンテーション需要」の変化
今回の発表でZero Networksは、企業におけるマイクロセグメンテーションへの需要が拡大していることを示しています。
発表によると、Zero Networksは前年同期比で以下の成長を実現しています。
- 売上高:前年比100%増
- Net Dollar Retention:120%超
- エンタープライズ顧客数:前年比230%増
- 顧客維持率:99%
- Fortune 500企業のうち15社で導入
特に注目したいのが、単なる売上成長だけではなく、エンタープライズ顧客数が大幅に増加している点です。
Zero Networksによれば、同社の顧客は重要インフラ、輸送、製造、エネルギー、ヘルスケア、金融など、事業継続性が重要となる業界にも広がっています。
これは、マイクロセグメンテーションが「一部の高度なセキュリティ対策」ではなく、侵害を前提とした事業継続・レジリエンス対策の一つとして捉えられ始めていることを示していると考えられます。
AIによって「攻撃者のスピード」が変わる
今回の発表でZero Networksが特に強調しているのが、AIによる攻撃スピードの変化です。
これまでのサイバー攻撃では、攻撃者がネットワーク内部に侵入した後、情報収集を行い、認証情報を取得し、別の端末やサーバーへ移動するというプロセスに一定の時間が必要でした。
しかし、AIを利用した攻撃では、このプロセスが大幅に高速化する可能性があります。
つまり、
「攻撃を検知してから対応する」
という従来型のセキュリティ運用だけでは、攻撃者のスピードに追いつけなくなる可能性があります。
Zero Networksは、このような状況に対して、セキュリティの考え方そのものを変える必要があるとしています。
同社CEOのBenny Lakunishok氏は、従来型のマイクロセグメンテーションを「Microsegmentation 2.0」、AI時代に求められるものを「Microsegmentation 3.0」と表現しています。
Microsegmentation 3.0では、
- より高速に導入できる
- 運用負荷が低い
- 大規模環境へ展開できる
- 攻撃者の横展開(ラテラルムーブメント)を迅速に制御できる
といった要素が重要になるという考え方です。
そもそも、なぜ「侵入後」の対策が重要なのか
サイバーセキュリティでは、これまで「侵入を防ぐこと」が重視されてきました。
ファイアウォール、IPS、EDR、メールセキュリティ、脆弱性管理など、外部からの侵入を防止・検知するための多くの製品が導入されています。
しかし、どれだけ対策を強化しても、すべての侵入を100%防ぐことは困難です。
そこで重要になるのが、
「侵入されたとしても、攻撃者を内部で自由に活動させない」
という考え方です。
これはゼロトラストの重要な考え方の一つでもあります。
「侵入」よりも「横展開」が被害を拡大させる
例えば、攻撃者がフィッシングメールなどを起点として1台のPCを侵害したとします。
そのPCだけが被害を受けているのであれば、影響範囲は限定的です。
しかし、そのPCから、
PC ↓ ファイルサーバー ↓ アプリケーションサーバー ↓ Active Directory ↓ バックアップサーバー ↓ 基幹システム
というようにアクセス可能な経路が存在していれば、最初の1台の侵害が組織全体の重大インシデントへ発展する可能性があります。
この「侵入後の横方向への移動」が、ラテラルムーブメントです。
そして、この横展開を制限するための代表的な技術がマイクロセグメンテーションです。
Zero Networksの調査が示す「内部ネットワークの広い到達性」
Zero Networksが2026年に公開した「2026 Lateral Movement Exposure Report」では、312の実際のエンタープライズ環境における約54兆件のアクティビティを分析しています。
その結果、非常に興味深い数字が示されています。
80%の企業サーバーがネットワーク内部のどこからでも到達可能
調査では、企業サーバーの80%がネットワーク内部のどこからでも到達可能な状態にあることが示されました。
さらに、
- 87%のサーバーが広範な内部ソースからのRDPまたはSSH接続を受け入れている
- 78.7%がSMBまたはWinRM経由で到達可能
- 内部認証の43.2%が依然としてNTLMに依存
- 1台の侵害されたホストから、最初の1ホップで内部システムの85%に到達可能
という結果も報告されています。
これは、攻撃者がネットワーク内部に侵入した場合、非常に広い範囲へ移動できる可能性があることを意味します。
つまり、セキュリティ対策を考える際には、
「どうやって侵入を防ぐか」だけでなく、「侵入された後にどこまで移動できるのか」
を把握することが重要になっています。
EDRやXDRがあっても「横展開を止める仕組み」は別に必要
ここで重要なのは、マイクロセグメンテーションはEDRやXDRの代替ではないという点です。
EDRやXDRは、端末やユーザー、ネットワークなどから得られる情報を分析し、攻撃を検知・調査・対応するための重要なセキュリティ技術です。
一方、マイクロセグメンテーションの役割は、
「そもそも通信できないようにする」
ことです。
例えば、あるサーバーに対して業務上必要な通信がHTTPSだけであれば、それ以外の不要な通信を制限することができます。
仮に端末Aが侵害されたとしても、
「端末AからサーバーBへ通信できない」
という状態をネットワーク側で作っておけば、攻撃者の横展開を物理的・論理的に制限できます。
これは、検知・対応だけに依存しない「侵害後の被害を構造的に抑える」アプローチです。
Zero Networksが重視する「Identity-driven Microsegmentation」
Zero Networksの特徴の一つが、Identity-driven Microsegmentation(アイデンティティドリブン・マイクロセグメンテーション)という考え方です。
従来のネットワークセグメンテーションでは、IPアドレス、VLAN、サブネット、ファイアウォールルールなどを中心に通信を制御するケースが一般的でした。
しかし、クラウド、リモートワーク、仮想化、モバイル端末などが普及した現在、IPアドレスだけを基準にアクセスを管理することには限界があります。
そこでZero Networksでは、ユーザー、デバイス、ワークロードなどのアイデンティティを考慮しながら、通信・アクセスを制御するアプローチを採用しています。
これにより、
「誰が」「どの端末から」「どのシステムへ」「どの通信を行えるのか」
という粒度でアクセス制御を考えることができます。
「AIを守る」だけではなく「AIによる攻撃速度に耐える」
今回のZero Networksの発表で、もう一つ注目したいのがAIエージェントへの対応です。
企業では、生成AIやAIエージェントを業務システムに組み込む動きが加速しています。
AIエージェントは、人間の操作を補助するだけではなく、企業システムへアクセスしたり、ツールを呼び出したり、データを取得したりすることがあります。
その結果、
「AIエージェントにどこまでの権限を与えるのか」
という新しいセキュリティ課題が生まれています。
Zero Networksは2026年8月、OWASPが提唱する「Least Agency」の考え方を適用した「Least Agency Enforcement」を発表しました。
これは、AIエージェントや自律型システムに必要以上の権限やネットワーク経路を与えないという考え方です。
つまり、AI時代のゼロトラストでは、
人間だけでなく、AIエージェントも「信頼しない」「必要最小限だけ許可する」
という考え方が重要になってきます。
「検知してから対応」から「そもそも到達させない」へ
ここまでの内容を整理すると、AI時代のセキュリティでは大きな変化が起きています。
従来は、
侵入を防ぐ→攻撃を検知する→SOCが調査する→インシデント対応する
という流れが中心でした。
しかし、AIによって攻撃速度がさらに高速化すれば、「検知してから対応する」だけでは十分ではない可能性があります。
そこで重要になるのが、
侵入を防ぐ+侵入されても横展開させない+重要資産への到達経路を最小化する
という多層的なアプローチです。
マイクロセグメンテーションは、この中でも「侵害後の被害を限定する」ための重要なレイヤーになります。
Zero Networksが示す「Microsegmentation 3.0」
Zero Networksは今回の発表の中で、従来のマイクロセグメンテーションから、AI時代に適した「Microsegmentation 3.0」への進化を提唱しています。
ポイントは、単にネットワークを細かく分割することではありません。
重要なのは、
1.迅速に導入できること
Zero Networksによれば、顧客環境への導入完了期間の平均日数は45日とされています。
2.ポリシー作成を自動化すること
同社によれば、ポリシーの97%がプラットフォームによって生成されています。
3.運用負荷を抑えること
導入から2年経過した環境でも、追加されるルールは中央値で年間5件とされています。
従来、マイクロセグメンテーションでは「ルール設計・運用が大変」という課題が導入の大きな障壁となっていました。
Zero Networksは、こうした運用負荷を自動化によって低減することで、企業規模でのマイクロセグメンテーション導入を容易にすることを目指しています。
日本企業にとって何が重要なのか
今回のZero Networksの発表は、海外市場だけの話ではありません。
日本企業でも、ランサムウェアやサプライチェーン攻撃、認証情報の窃取などによって、一度内部環境への侵入を許してしまうケースが大きなリスクとなっています。
また、企業ネットワークには、
- Active Directory
- ファイルサーバー
- データベース
- 業務アプリケーション
- バックアップサーバー
- 仮想化基盤
- OT/IoT環境
- クラウド環境
など、多数の重要資産が存在します。
これらが広範囲に相互接続されている場合、一つの端末が侵害されたことが、組織全体のシステム停止につながる可能性があります。
そのため、
「侵入されないための対策」だけではなく、「侵入された場合の被害を限定する対策」
を同時に検討することが重要です。
これからのゼロトラストに必要な「通信の最小権限」
ゼロトラストという言葉から、IDaaSや多要素認証、ZTNAなどをイメージする方も多いでしょう。
もちろん、ユーザー認証やアクセス制御はゼロトラストの重要な要素です。
しかし、ゼロトラストを「侵入後の被害抑制」という観点まで広げると、ネットワーク通信そのものを最小権限化することも重要になります。
つまり、
「このユーザーは認証されたから、ネットワーク内のどこへでもアクセスできる」
ではなく、
「認証されたユーザー・端末であっても、業務上必要な通信だけを許可する」
という考え方です。
これは、ゼロトラストの「Never Trust, Always Verify」という思想を、ユーザーアクセスだけでなくネットワーク内部の通信にも適用する考え方と言えます。
AI時代のセキュリティは「攻撃者より速く対応する」だけではない
AIによって攻撃者の能力が高まり、攻撃スピードが高速化していくと、セキュリティ対策にも変化が求められます。
もちろん、AIを活用した検知・分析・自動対応は今後も重要です。
しかし、それだけではなく、
「攻撃者がどれだけ速く動いても、そもそも移動できない」
という環境を作ることも重要になります。
これが、AI時代におけるマイクロセグメンテーションの大きな価値です。
Zero Networksが今回の発表で示しているのは、単なる製品機能の強化ではありません。
それは、
「攻撃を検知して止める」セキュリティから、「攻撃が広がらない構造を作る」セキュリティへ
という考え方の変化です。
AIによって攻撃速度がさらに高速化する今、企業のセキュリティ戦略において、侵害後のラテラルムーブメントをいかに制御するかは、これまで以上に重要なテーマとなるでしょう。
Zero Networksについて
Zero Networksは、アイデンティティを軸としたマイクロセグメンテーションを提供するZero Trustセキュリティプラットフォームです。
ユーザー、端末、サーバー、ワークロードなどの通信を可視化し、不要な通信経路を特定・制御することで、攻撃者によるラテラルムーブメントを制限し、侵害時の被害範囲を最小化することを目指します。
また、AIエージェントを含む新たなアイデンティティやアクセス経路に対しても、最小権限の考え方を適用することで、AI時代のゼロトラストを支援しています。
2026年のZero Networksの発表では、同社の顧客数や売上の大幅な成長に加え、KuppingerColeによるZero Trust Platformsの評価や、Forrester Wave™ Microsegmentation Solutions, Q3 2026におけるStrong Performerとしての評価も紹介されています。
日本においても、ランサムウェア対策、ゼロトラスト、サイバーレジリエンス、Active Directory保護、重要サーバーのアクセス制御など、さまざまな観点からマイクロセグメンテーションの重要性が高まっています。
「自社ネットワークに侵入された場合、攻撃者はどこまで移動できるのか?」
この問いを起点として、内部ネットワークの通信経路とアクセス権限を見直すことが、これからのセキュリティ対策において重要になっていくでしょう。
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